27. 6月 2020 · June 26, 2020* Art Book for Stay Home / no.19 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『イスのかたち デザインからアートへ』企画・編集 村田慶之輔、宮島久雄、榮樂徹、塩田昌弘、建畠晢、中田達郎(国立国際美術館、1978年)

デザインとアートの違いを明確に説明したいと、学生時代から考え続けてきた。28歳のとき、椅子の造形というものに出会って、霧が晴れるように一気に解ってきた。

「椅子というものはアートなのか、デザインなのか」
どちらだって良いという答えは思考を停止させる。どちらでもあるという答えは思考を曖昧にさせる。
1978年8月に大阪の国立国際美術館で開催された「イスのかたち デザインからアートへ」という展覧会は、「椅子というものはアートなのか、デザインなのか」を140点のイス作品で問うものであった。

グッドデザインを追求したシンプルで美しいイス、座り心地を徹底追及したイス、想像を超えるフォルムのイス、かつてない素材で生み出されたイス、鑑賞することのみのために造られた座ることのできないイス(しかし鑑賞は座るというイスの機能を通して観ることを前提としている)、140点が140のコンセプトを持つイスであった。

例えば、今では著名な倉俣史朗の《硝子の椅子》、1976年にデザインされたばかりであった。
6枚の長方形のガラスのみで造られている。もちろん座ることができ、量産することもできる。デザインにとって目的を果たす機能と量産は重要な条件である。
多くのイスが座り心地を予想できる中で《硝子の椅子》は予想不可であり、その「割れるかも知れない」という緊張と不安、ときめきは視覚的な美しさを見事なまでに高めている。

岡本太郎の《座ることを拒否する椅子》、数ある岡本太郎作品の中でも代表的なものである。
岡本は「いわゆるモダン・ファニチュアのいかにも座ってちょうだいと、シナをつくっている不潔さに腹を立て」この椅子を造ったという。
陶器製で鑑賞しても楽しいが、座面が凸凹していて短時間であればお尻が笑って喜びそうな椅子である。デザインを真っ向から否定して、これもまた楽しいデザインという岡本のアートとデザインを巧みに行き来する傑作である。

福田繁雄の《トランク椅子》は大きなトランクそのものの形であり革と金属という本物と同素材でできている。
座わる人がいなければ大きなオブジェだが、座ってみたい衝動を掻き立てる、座ればたちまちイスである。

イスと言うものは明らかにデザインであるが、身体に極めて直結する精神的なものであり、生きる上で全ての人間が強く関わるものである。
精神性と深く関わるアートにとって、魅力的なモチーフでもある。
イスはアートとデザインのクロスロードであり、「アートとはなにか、デザインとはなにか」の答えを導いてくれるものである。

1978年のこの「イスのかたち デザインからアートへ」という展覧会は、その後の私のデザイン&アートワークの確かな指針となるものだった。

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