『いつも今日 私の履歴書』野見山暁治(日本経済新聞社、2005年)
本著は103歳で死去した著者が、84歳のときに日本経済新聞に連載した『私の履歴書』に1年かけて書き足し、85歳で出版したものである。
野見山暁治の文は、痛快で読者ファンも多く、著書は26冊、共編著8冊と画家とはとても思えない数である。それは103歳という長寿のキャリアが為せる技でもあるが。
一方で画集・作品集は8冊で、東京芸術大学4年の勤務以外は定職を持たず、ひたすら画家として生きてきた人生には少なすぎる。ただそこにも著者の生き様があって、デッサン、テクニック、画風など絵の小さなこだわりを超えて、本音で描き、自分をなぞらず、生きるために絵を手放し、それらの作品がどこにあるのか、関心をを持たなかったがゆえに、晩年の画集に作品が確認できなかったことにもよる。多くの著名な画家が、子供時代からの作品を大切に残しているのに比べ、これはもう愉快というしかない。
画家の著書というのは、作品があって、その作品の魅力の一端を知る思いで著書を紐解くことが多い。だが野見山暁治に関して言えば、彼の作品を全く知らなくとも著作はおもしろい。本著においても、絵画作品に関しての著述は殆どなく、書かれているのは著者の人生であり、人間であり、生き方考え方である。
読後感としては、「あゝ、この人生があって、あの絵なんだな」と納得する。
戦争体験を含む80年を超える画家人生は、多くの著名画家との出会いが書かれているが、その誰をもほんの数行で人物の魅力を浮かび上がらせる。その観察眼は、そのまま自身の絵画作品の制作眼なのだろう。