『倉俣史朗 着想のかたち 4人のクリエイターが語る。』鈴木紀慶 編著(六耀社、2011年)
4人のクリエイターは、小説家の平野啓一郎、建築家の伊東豊雄、クリエイティブディレクターの小池一子、プロダクトデザイナーの深澤直人。4人の視点から見事に倉俣を浮き彫りしている。さらにエピローグとして編集者の川床優が論考を加えている。
伊東と小池は、その専門性よりのなるほどという説を述べている。驚いたのは平野である。平野は美術に詳しく、私もファンであり何冊かを読んでいる。ところが本論では、得意な美術からの視点ではなく、きちんとデザインからの論考を展開している。デザインが専門である私が読んで驚くばかりの理解力である。そして平野は「倉俣デザインのような小説を書きたい」と願い、それが叶わないことも明解に論じている。最後の数行が倉俣デザインを最も言い得ていると思うので全文を紹介する。「僕が倉俣さんの作品が好きなのは、『覚めない夢』だからです。夢の世界を表現すること自体は、難しくないのかもしれないけれど、ほとんどの作品は、大体見る人がどこかで、目が覚めますよ。けど倉俣作品は、いつまでもずーっと夢のまま、という感じがします。どこかで覚めるかなと思うけど、なかなか覚めない。そこが不思議な魅力なんでしょう。それに本当の夢は触れないけれど、彼のつくったものは身体を通じて感触を確かめられる。手触りがあって覚めない夢、ですかね。」小説家らしい美しい文で感動した。
深澤の倉俣論はまた素晴らしい。デザイナーならではの繊細で理路整然とした考察を語っている。倉俣デザインではあまり取り上げられない『傘立て』の魅力を「消えるデザイン」として大きな評価を与えている。そしてそれは発想のみを称えるのではなく、制作した職人の技を含めているところに、さすがデザイナーの視点と感じた。アートと大きく異なるところは、デザインと作品の間に多くの場合職人が加わることだ、そしてそれがクリエイションに大きく関わるということである。
ショップのインテリアデザインでは、「入り幅木」と「眠り目地」を取り上げ、『隅と縁とつなぎ目』を論じているが、倉俣の感性を称えるばかりでなく、繊細な仕事があっと驚く空間を作り上げていることを深澤はていねいに語っている。