『鳥取が好きだ 水丸の鳥取民芸案内』安西水丸(河出書房新社、2018年)
2014年3月、突然水丸さんが脳出血で亡くなられた。
著者安西水丸は、会えば「水丸さん」と呼んで酒をご一緒する友人関係であったので、ここでも水丸さんと呼ばせていただく。
清須市はるひ美術館においては、2017年7月〜10月「特別展 イラストレーター安西水丸 ―漂う水平線―」を開催している。
トップイラストレーターとしては多くの人の知るところであるが、漫画家、小説家、エッセイスト、絵本作家、映画評論家としても輝く業績を残している。
2018年の秋、出版社から水丸さんの著書が送られてきた。著者進呈である。水丸さんが亡くなられて4年以上が過ぎている。
しかし間違いなく『鳥取が好きだ・・・』は水丸さんの著書であり、水丸さんの洒脱な文で綴られている。随所にこの著書のために描かれたイラストレーションも掲載され、書名、コーナータイトルも水丸さんの筆跡である。
おそらく亡くなる前に殆ど著作作業を終えており、出版寸前であったのだろう。最後のOKを出す前に亡くなられたと考えるのが順当なところであるが、水丸さんは「ちょっと待ってね、思わず死んじゃったけれど、少し手直ししたいんだ」と言って天国から戻って来たに違いない。でさっさと手直しするかと思うと「ごめん、約束があって」と言って仲間が待つバーに出かけちゃって、4年が過ぎちゃった。酒が大好きで、友と飲む酒が大好きで、お話が大好きな水丸さんは、いつも夜の酒場に消えて行ったそうだ。
やっと出版OKが出てからも、「あの人にこの人に本贈っておいてね」と手配に何日もかかって、そっと天国に帰って行った。
さて、『鳥取が好きだ・・・』である。サブタイトルにあるように「鳥取民芸案内」が全てである。
「えっ」と戸惑われる方も多いと思われるが、鳥取は民芸の宝庫。でも多くの人の知るところではない。そこが民芸の面白さであり、水丸さんらしいところだ。水丸さんは一流ブランドたるものが好きではなかった。質は問うが名は問わない。名は観る眼を拐かす。
前文に「・・・鳥取は日本でも有数の民芸運動が盛んな土地だ。そんな民芸運動を語るに欠かすことの出来ない人物が民芸の名プロデューサーといわれた吉田璋也だろう・・・」吉田璋也を知らない人には知って欲しい、知る人にはもっと知って欲しい、そんな水丸さんの声が聞こえる。
2019年の夏、私は『鳥取が好きだ・・・』を抱えて鳥取民芸の旅に出かけた。
水丸さんに会えるような気がして。