26. 10月 2022 · October 26, 2022* Art Book for Stay Home / no.104 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『現代アート事典』美術手帖編(美術出版社、2009年)

 

この本は読んでも良いし、調べて事典として使うもよし、とある。だが読むにはしんどい本である。やはり現代美術独特の難しい言い回しが多く、21人の執筆者の充分な相互コミュニケーションがなされているとは思えない。それぞれが得意なところを執筆し第三者が編集したのだろう。一般に事典というのはそういうものである。

私は、2021年度に愛知県立瀬戸工科高校専攻科で「現代美術」の講義を担当することになり、自分と学生のためにテキストを作成した。テキストは29回をテーマ別に分け、図版と文章で構成した。その資料として5冊の著書とインターネットを使用した。5冊の著書の中で最も多く利用したのが本著である。さすが美術出版社である。第一に網羅されている領域が広く、大項目とその概要、さらに小項目とその説明、小項目には関係する出来事や作家を取り上げている。

現代美術においては概要そのものが難しい。先ず現代美術はいつから始まったのか、現代美術とはそもそもどう定義するのか、互いに関係しあい、重なっている項目をどう整理するのか。その点において本著は比較的よく整理されていると言える。

現代美術という言い方でさえ、モダンアート、コンテンポラリーアートという呼び方があり、前衛芸術という捉え方も重なってくる。

私は一つのテーマについてテキストを作る場合、例えば抽象美術では、抽象表現主義、アクションペインティング、ミニマル・アート、オプティカルアート等を調べ、その始まりはいつどのようなものであったのか、またどのように終息し変容していったのかという整理を行う。内容がボリュームオーバーになる場合には2回に分けてテキストを作った。また全てのテキスト別にパワーポイントを作成、サンプル作品を多く紹介した。その場合でも本著は、作家名、作品名を具体的に多く紹介しており、他著やインターネットを併用しやすかった。デスクの側にぜひ置きたい一冊である。

10. 10月 2022 · October 10 , 2022* Art Book for Stay Home / no.103 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『時の震え』李禹煥(小沢書店、1990年)

本書の初版は1988年に刊行されているので、著者52歳の執筆であり、それ以前に書かれたエッセイや論説をまとめたものである。著者は韓国に生まれ、儒教色の強い家柄で、幼年期を通して詩、書、画を学んでいる。20歳のときにソウル大学校美術大学を中退来日、1961年日本大学文学部哲学科を卒業している。本著が堪能な日本語で書かれているのは、著者の個人的能力はもちろんのこと、教育を受けた時代がハングル語に加えて、漢字を学ぶことが必修であったことも含まれていると思われる。テレビ等で語る著者の日本語のナチュラルさは、多くの人の知るところである。

もの派として知られる著者の作品のイメージからは、ストイックなキャラクターが想像されるが、韓国料理、日本料理、フランス料理など料理を好むグルメである。フォアグラが何度も登場するなど意外性に満ちている。また美人の登場回数も多く、酒、煙草をかなり嗜み、妻子のある一般的な家庭である。

語られるアートは多くはないが、それ故むしろ日常の生態が大変興味深い。例えば、AとBの選択がある場合、Aに対しての反論があり、返す刀でBに対しての反論がある。第三の説を強く主張するのかと思えば、そこは主張ではなく、自らの曖昧さを恥じ、愛するといった小心である。常に虚空を追う癖が見て取れる。

銀座の画廊で精力的に個展を開催し、久しぶりに無償で借りているアトリエに戻ったら、制作中のものを含めてそれまでの作品、画材や道具、がなくなっている、アトリエそのものが消えていた。詳細は本著を読む興味としてここでは書かないが、その「釣竿を求めて」のエッセイは著者の能力、非能力を象徴しておもしろい。笑える話ではないが、このできごとがその後の現代美術作家李禹煥を完成させて行くのではないかと私は思える。

一般に重要なことを軽く捉える姿勢、一方で何でもなさそうなことを深く捉えこだわり続ける執念深さは、李朝の白磁のような澄みきりと、壁の隅に見つけた小さな黴を気にし続けることのようだ。

02. 10月 2022 · October 1, 2022* Art Book for Stay Home / no.102 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『VOGUE ON  ココ・シャネル』ブロンウィン・コスグレーヴ、鈴木宏子翻訳(ガイアブックス、2013年)

書名の通り、「VOGUE誌に掲載されたココ・シャネルの物語」である。VOGUE誌はハイファッションの最先端を行く雑誌のひとつ、掲載商品の貸し出し元にも欧州の名門ファッションブランドが軒並み名を連ねる。世界各国で出版されている。日本ではVOGUE JAPANと称し、毎月発売されている。1892年より発行されており、ココ・シャネルの活躍した2000年代がそのままVOGUE誌に取り上げられていることになる。

そのVOGUE誌に掲載されたココ・シャネルのデザインスケッチ、写真、またココ・シャネル自身のポートフォリオとともに、彼女の言葉を紡ぎながら物語が書かれている。

スキャンダルの極めて多いココ・シャネルに関しての伝記は多く、彼女自身も取材に対して心地よく応じていた。それはややもするとスターとしてのココ・シャネルが過剰に描かれており、ファッションデザイナーココ・シャネルを見失いがちである。本書はVOGUEの名を冠しているようにファッションデザイナーとしての魅力に忠実である。VOGUE誌がココ・シャネルによってその売上を大きく伸ばした事実に基づいて、ココ・シャネルもまたVOGUE誌によって大きく知名度を上げ羽ばたいていったことが想像される。

本書は書籍であるが、ファッション雑誌を楽しむように読むことができる。ココ・シャネルファンでなくとも20世紀のファッション文化に興味のある人たちすべてに書かれたと言えるだろう。