28. 10月 2024 · October 28, 2024* Art Book for Stay Home / no.152 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『多木浩二対談集・四人のデザイナーとの対話』多木浩二+篠原一男+杉浦康平+磯崎新+倉俣史朗(新建築社、1975年)

50年前に購入して、オフィスの書棚に眠っていた本を取り出して再読した。「四人のデザイナーとの対話」ということで、篠原と磯崎は建築家であるが、著名にあるように(建築)デザイナーとしての対談である。2人は建築家の中でも、その個性的な造形性からデザイン認識が高いと言える。建築家の中でも特に私の好きなタイプである。杉浦はグラフィックデザイナーであるが、最も理数学的なデザインをする。アジアの図像学研究者としての肩書もある。私は杉浦のデザインに強く影響を受けてタイポグラフィ(文字に関わるデザイン全般)を身に付けた。今でもその精密さを大切にしている。

上記3人は、理論派でデザイン論では秀逸な多木とは、理論合戦の対談となっており、相当疲れる。モノとしてのデザインから離れ過ぎて抽象論になっている。結果私がどれほど理解し得たか、はなはだ疑問である。

一方倉俣は、デザインは非常にシャープであるが、感性の高いクリエイティブで、語りも感覚的である。何が言いたいのかと思ってしまうが、多木の理論分析が倉俣の言葉を明解に提示してくれる。倉俣自身も多木の言葉によって自身のデザインを語るので、対談とはこうあって欲しいというものになっている。

それにしても、デザインというものが一過性の魅力と捉えられがちな中で、4人のデザインの普遍性が半世紀たった今も褪せることがないのは、本著の凄さでもある。

なお篠原、磯崎、倉俣は亡くなっているが、杉浦は93歳の今も現役で活躍している。

09. 10月 2024 · October 7, 2024* Art Book for Stay Home / no.151 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『いわさきちひろ 子どもへの愛に生きて』松本猛(講談社、2017年)

いわさきちひろ(以後ちひろ)の人生をなぞった本は数冊ある。そのうち5冊を読んだ。どれも誠実に愛を込めて書かれているが、その中で最も詳しく気持ちを込めて書かれているのが本書と思う。

著者松本猛は、ちひろの実子である。ちひろの本名は岩崎知弘、男性名「ともひろ」との混乱、童画家に多くあるひらがな名の使用によって「いわさきちひろ」を作家名としている。松本善明と結婚して後の本名は松本知弘、その子というので松本猛である。

ちひろ誕生までは、ちひろの家族、親戚、関係者の聞き取り、ちひろや父善明の日記や手紙などを取材し、極めて客観的に描写している。またちひろの写真やスケッチなども紹介し、実子ゆえの特権を生かしている。

1950年に松本善明と結婚、翌年猛が誕生。次第に著者の記憶のもとに主観が加わっていくが、ちひろの人生を客観的になぞっていく姿勢は失われていない。

著者は長じて、東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、いわさきちひろ記念事業団設立準備委員会を発足させ、ちひろの作品を展示する美術館の開館に奔走する。現在、美術・絵本評論家、美術評論家連盟会員、日本ペンクラブ会員。安曇野ちひろ美術館館長、長野県立美術館館長、絵本学会会長と多方面において活躍。評論家、著述家としての能力も高く評価されている。

母ちひろについて、決して身内の甘い評価であってはならない。しかし、ちひろの絵の魅力、功績をできるだけ多くの人に伝えたいという思いは、強く、読むものの心を打つ。ちひろファンのみならず、ちひろの絵を「かわいいから好き」というちょっと関心のある人にもぜひ読んでほしい。こんなにも人生を精一杯生きられるものなのかと。