『普通のデザイン 日常に宿る美のかたち』内田繁(工作舎、2007年)
内田繁は日本を代表するインテリアデザイナー、2016年73歳で亡くなるまで20世紀の日本のデザインを牽引し、世界に紹介、21世紀の展望を示した。
そしてその展望の一つがこの『普通のデザイン 日常に宿る美のかたち』である。
牽引した20世紀の日本のデザインは、西欧型合理主義と資本主義の下、強さと巨大さに向かい、果てしなく欲望を刺激続ける大量生産と大量消費に給するものであった。
そこに異を唱え、新たなデザインの思想を築く必要があることを訴えている。
本著の中で最も共感するのは「弱さのデザイン」を考えなければならないとする主張である。
本来人間は強いものではなく、移ろいやすく、気まぐれで傷つきやすく、脆いものであり、そこに添ってこそデザインの本当のあるべき姿がある。
その上に立って「普通のデザイン」とは何かを考える。
「そもそもデザインとは普通でない特別なことを指すのではないか」「普通というテーマはデザインの主旨にはずれるのではないか」という疑問がある。
あまりにも過剰なデザインの氾濫が、都市環境、生活文化を侵している。刺激的な看板、広告、乱立する建築、けたたましい商業空間、はたまた生活空間においても工業製品や家庭用品、あまりにも雑多な食品や飲料、嗜好品とそのパッケージ。
すべてが資本主義のもと、デザインされて形が生み出されている。
多くのデザインが、便利、享楽、刺激を生み出し、それらがストレスとなって私たちの暮らしを蝕んでいく。
グローバルデザイン、ユニバーサルデザインが奪った繊細なもの、地域の風土、歴史、伝統に目を向け直し「普通、ノーマル、スタンダード」を見つけていかなければならないとする。
生前、内田さんとは大変親しくさせていただき、たくさんの議論を交わす機会を頂いた。私たち内田デザインファンは、20世紀を代表するカッコいい、刺激的なデザインに集まった者たちである。ガンに侵されて亡くなるまでの十余年、内田さんは、その反省を静かに語るピュアな思想家であった。