24. 11月 2023 · November 24, 2023* Art Book for Stay Home / no.131 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『芸術をめぐる言葉』谷川渥(美術出版社、2000年)

本が出版されたとき、勢い込んで買って読んだが、20年以上立って、殆ど憶えていない。ブログを書くにあたり再読したが、なるほど50歳の自分がほとんど太刀打ちできなかったことがよく解る。70歳過ぎた今でもやはりなかなか難解だ。
芸術、特に美術を中心として書かれているが、文学や演劇、更には哲学や科学など多方面に渡っている。それでこそ芸術だろう。
「芸術をめぐる言葉」は言い換えれば「芸術とは何か」である。80人の言葉を取り上げているが、前中後編と内容がなんとなく分類されている。前編は「芸術とは何か」の芸術の概念そのものに関して見えない闇の中から探し出そうとしている言葉である。したがって極めて抽象的である。中編はそうした概念がほぼ共有できるものになって、表現の問題やモチーフの問題へと具体的になってくる。解りやすいとも言える。後編はその概念が崩され、発展していく。いわゆる現代美術の盛んな状況を受けて紹介されている。
なぜこのような展開となっているかといえば、その言葉が書かれた時代順に紹介されているからである。芸術とはかくも曖昧で、主観的なものであることが認識される。それだけ魅力的なものであり、人類の未来を導くものとして位置づけられている。
現在においても芸術の概念、定義は極めて難しい。変容し続けている中で、「芸術大学」や「芸術センター」と芸術を冠して名乗っていることすら、私にはどうなんだろうという疑問がついて回る。芸術大学は、もっともっと「芸術とは何か」を追求し、発信しなければならないだろう。

04. 11月 2023 · November 4, 2023* Art Book for Stay Home / no.130 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『黒田辰秋 木工の先達に学ぶ』早川謙之輔(新潮社、2000年)

黒田辰秋は、漆芸家、木工家。木工と乾漆、螺鈿などの漆芸で幅広く知られる。河井寛次郎、柳宗悦らに強く影響を受け民藝運動にも関わる。67歳で重要無形文化財「木工芸」保持者(人間国宝)の認定を受け、翌年紫綬褒章を受賞。漆、木工芸における最もよく知られた作家である。

著者早川謙之輔は、やはり木工家であり、黒田辰秋の知遇を得る。弟子とも言えるが、黒田が「私は弟子を持たない」と宣言していること、また早川自身の謙虚さもあって弟子を名乗ることはない。

本著は黒田が亡くなり、また家族やその周辺の黒田を知る人が少なくなり、黒田の魅力、貴重なエピソードを遺しておかなくてはという思いから書かれたものである。黒田は京都生まれで、京都に工房があったが、1964年 映画監督黒沢明より御殿場山荘の室内家具セットの制作依頼を受け、岐阜県付知に仕事場を設けた。著者は付知に居と仕事場を持っていたことで、協力と深い交流を得ることになる。

34歳の年齢差は、木工職人として大きな開きがあり、まして日本を代表する作家である。叱られることも度々の中で、師と敬い、黒田のすべての言葉に耳を傾けて教えとしてきた。黒田の伝記的著書でもあるが、木工を通して交流のあった二人の人間模様が読者を惹き付ける。民藝に強く感銘を受け、民藝運動にも参加していた黒田は、それ故に師匠と弟子といった上下関係を極めて嫌っていたように思える。どれだけ歳が離れ、経験の差があろうとも、対等に接し、対等であるがゆえに厳しい言葉も多く投げかけられたと思われる。

本著の本旨ではないが、木工に関する専門用語が多く登場する。その丁寧な説明は、木工の難しさと魅力を伝えており、「木工とは何か」を知る著書でもある。