『虚を注ぐ 土の仕事と手の思索』山本幸一(石風社、2021年)
陶芸家 山本幸一の残した文、言葉、陶芸作品を集めたものである。ヤマコー(山本幸一の通称、知人は皆そう呼んでいて、略称でもあり、自身の山幸窯のことでもある)さんを私は知らない。作品も観たことがない。
福岡に生まれ、熊本大学工学部に入ったが、そこで学生運動のリーダーとなる。1947年生まれなので、学生運動真っ只中で私より3歳上、なんとなく共通の時代の空気を感じて読んだ。いわゆる地方に根をはやし、いい仕事をし、人間的に魅力的な陶芸家の人生が詰まっている。本著との出会いは、10年以上お付き合いいただいている熊本出身の方が、ヤマコーさんと私に共通のインスピレーションを感じてプレゼントしてくださったことによる。
石風社(出版元)代表の福元満治は、ヤマコーの親友で学生運動の同士である。半世紀に及ぶ濃い付き合いがあって、2020年に亡くなったヤマコーの記念碑本を出したかったのだろう。A5版245ページ、ハードカバー製本の立派さにその思いが伝わってくる。陶芸家なので作品集をという思いからスタートしているが、残念ながら殆どの作品は手を離れ、その写真もリストも残っていない。多くの陶芸家というものは、そういうものである。作品という強い思いのあるものもあるが、多くはそういう意識もなく。展覧会で求めてくださる人があれば、喜んで手元から離していく。プロの写真家によって記録を残すなど基本的にはない。最終的には10ページほどの作品写真は添えられているものの、作品名、制作年、寸法も殆どない。本人が機会あるごとにしたためた文章が主となるヤマコーの人生の碑である。
特別有名でもなく、よく知らない陶芸家の人生を覗き見することはとても楽しかった。文章は上手い、手元にかなりの本が積まれていたものと伺える。著名人が登場する、多くの出会いはヤマコーの陶芸作品が導いている。陶芸は皿、碗、急須、カップなど普段使いの器、花器や茶器、骨壷も作る。またかなり早い時期からオブジェ制作にも手を染めてきた。こう述べると、なんでも屋のように聞こえるかも知れないがそうではない。何を作るにもその動機があって、その動機に向かい合っていることが伝わってくる。その上でのオブジェ。オブジェについては自問自答が多く、どこまで行っても悔いと恥じらいを残している。ハマコーのオブジェの魅力はそんな恥じらいとともにあるように思える。
読後感、ハマコーさんに会いたかったな、いや本で会えて良かったな。