06. 6月 2020 · June 6, 2020* Art Book for Stay Home / no.13 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記, 未分類

『入門!美術コレクション』室伏哲郎(宝島社新書、1999年)

多くの人は、美術は鑑賞するものであるという認識である。
義務教育の中でそのように教わってきたし、そもそも美術館というのは鑑賞を目的として造られているのではないか。
その通りであるが、美術が売買されるものであることも多くの人の知るところである。その場合、美術と呼ばず、美術品と呼ぶ。価格が付けられて流通するものは品物である。かくいう美術館の多くの所蔵作品も購入によって成り立っている。購入以外は寄贈作品であるが、その場合も想定価格が記録される事になっている。

一方で、美術作家という職業はどのようにして成り立っているのであろうか。
多くは美術の専門教育を受けるために芸術大学・美術大学に行く、行くためには専門の予備校に通う。現役合格は難しく、大学によっては何年も浪人することも珍しくはない。芸術大学・美術大学の月謝、教材費は医学部に次いで高額である。近年は大学院を修了、あるいは海外留学も一般化しつつある。
そしてプロになってもすぐに作品が売れるということはめったになく、作家を続けて行くためには生活費を含めてさらなる活動費用がかかる。親や親戚の支援なくしては不可能である。本来支えられなければならないのは、作品が売れるという支援である。

美術コレクションがあって、美術作家は育てられるのである。
かつては教会、寺院、貴族、武家、富豪というパトロンであったが、それに変わるのが現在では美術コレクターである。美術コレクターは経済的に裕福な人がなる、と考えられがちであるがそうではない。経済的に裕福な人であっても美術に関心のない人は一点の作品もコレクションすることはない。
では誰が美術コレクションをするのか、美術を愛好する者である。美術を愛好する者がそれぞれの経済力に合わせた形で美術作家を支援する。

美術作品は高額であると考えている人が多い、そういう作品もあるが、実際は数千円のものから魅力的なものはある。大きな作品より小さな作品は安い、ミニチュア作品と呼ばれるものは1万円以下でも優れた作品がある。版画は複数制作されるので一点は安い。美術館のショップでは、アートグッズと呼ばれる美術品の複製(ポストカードなど)は100円から販売されている。

美術コレクションというのは、美術作品を手元において楽しむことである。それは誰もが可能なことで、洋服を買う、外食をする、アクセサリーを買う、コンサートに行く、海外旅行をするということと変わりはない。美術という市場を知ることである。

本書『入門!美術コレクション』はそういう美術市場を教えてくれる、そして観る、選ぶ、買う、売る、創るという美術コレクションにおける多様な楽しみを紹介している。