『人形作家』四谷シモン(講談社現代新書、2002年)
「人形は芸術ですか」という質問は、四谷シモンの人形を観るといかにつまらない質問か判る。「書は芸術ですか」「生花は芸術ですか」「写真は芸術ですか」も同様につまらない質問であり、「絵画は芸術ですか」「彫刻は芸術ですか」もひとまとめにして同様につまらない質問であると言える。つまり芸術というのは、一点一点の個の作品の評価であって領域に対してあるものではない。
四谷シモンの人形を圧倒的な芸術の存在としてみる事ができるのは、「芸術とは何か」を知る人のみである。しかし、四谷シモンの人形は四谷シモンともども特異な存在であることは事実であり、その特異を知りたくて本著を手にとった。
「シモンとは何者であるか」は序文で嵐山光三郎が、8ページに渡って詳細に書き尽くしている。24歳で唐十郎の状況劇場の女役者として登場した頃から、アンダーグラウンドの陰陽も含めて、どれだけ異様に輝いていたか。本文では四谷シモン自身が出生から奇異なる家庭、例えばダンサーでストリップもする母親が小学校にやってきて父親のバイオリンの伴奏でストリップショウを行ったことなど。四谷シモンの感性は細い絹糸が多色に染められるように育まれていく。
熱狂の状況劇場では自ら女人形のように化身し、「シモンちゃーん」の大歓声を浴びた。歓声の主たちは、澁澤龍彦、矢川澄子、寺山修司、土方巽、山下洋輔、檀一雄、横尾忠則、瀧口修造、加藤郁乎、松山俊太郎、吉岡実、種村季弘、金井美恵子、合田佐和子、大島渚、金子國義、高橋睦郎・・・・。
才能とはどのように生まれ、造られて行くのか。四谷シモンの人生を追うと、努力とか研鑽とか、そんなものはちっぽけ過ぎて、萎えざるを得ない自分がいる。