21. 1月 2025 · January 21 , 2025* Art Book for Stay Home / no.158 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』山本浩貴(中公新書、2019年)

現代美術に関する著作を多く読んだ。「現代美術とはなにか」の答えは、多くの現代美術を観ることと、現代美術に関する著作を読むことであると確信するからである。そして多くの著作は「現代美術とはなにか」「現代美術入門」「現代美術事典」というもので、難解とされる現代美術の解説であった。
本著は「現代美術史」つまり「現代美術+美術史」である。これまで私の読んだ現代美術に関する本の中で「美術史」として捉えたものはなかった。歴史は過去のものであり、過去に遡って俯瞰することにより、どのような時代であったかを述べているものである。現代という時代は我々の生きているそのものであるので、歴史として捉えるには極めて困難である。本著における現代美術の定義が大きくものを言う。本著では現代美術を20世紀以降とし、特に第二次世界大戦後の現代美術を徹底解説して歴史として意義付けている。
現代美術が難解なもう一つの理由に、西洋美術史や日本美術史のように地域を限定しては語れないところにある。それをインターナショナルであるとか、グローバルであるという視点ではなく、トランスナショナルとしている視点が本著の極めて優れたところであると思う。現代美術の特徴として、ある都市で起きた事象、生まれた作品は、一瞬に他都市、あるいは都市という単位ではなく個人に転移する。インターネットによる情報は、美術に限ったことではなく、社会が反応して歴史が動いている。帯に「民族」「ジェンダー」「貧困」「差別」「戦争」「震災」「五輪」「万博」とあるが、現代美術がいかに世界の社会問題と関係しているかが本著のテーマでもある。「トランスインターナショナル」とした著者の視点に感服する。

06. 1月 2025 · January 6 , 2025* Art Book for Stay Home / no.157 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『奇想の系譜 又兵衛―国芳』辻惟雄(ちくま学芸文庫、2004年)

痛快におもしろい本著は、1968年の『美術手帖』7月号から12月号にかけて連載された〈奇想の系譜―江戸のアヴァンギャルド〉の原稿に、筆者が加筆、長沢芦雪の一章を書き足したものである。単行本として美術出版社より出されたものが2004年に文庫本として出版された。

特に伊藤若冲が知られるきっかけとなった著書として注目されているが、ほかに岩佐又兵衛、狩野山雪、曾我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳について紹介され、いずれも昭和の美術史では殆ど注目されていなかった江戸の画家を一気にメジャーに持っていったことで、日本美術史上最も秀逸な著書と言えるのではないか。

「奇想」については、鈴木重三の「国芳の奇想」という一文にヒントを得たとしている。著者は「江戸時代における表現主義的傾向の画家―奇矯(エキセントリック)で幻想的(ファンタスティック)なイメージの表出を特色とする画家―の」系譜を辿って見たとのことである。系譜は狩野派などの派に対してのもので、直接師弟の関係はないものの、互いに刺激し合ったり、インスパイアされたり、あるいは直接の接点はなく偶然も含めて一つの流れを見ることができるとしている。

日本美術史において全く見向きもされなかったこれらの画家が、大きく注目を浴びるようになったのは、本著の力が大きいのであるが、一方で現代美術による鑑賞者の視野の拡大を著者は指摘している。奇想の画家の登場は、現代美術作家に大きな影響を与えていることは明らかであるが、また現代美術ファンもまた奇想の系譜に喝采を送っていることも事実である。美術手帖への最初の執筆〈奇想の系譜―江戸のアヴァンギャルド〉を振り返ってみれば、アヴァンギャルド(前衛)に呼応しているわけで、著者はそのことを予期していたと思われる。隠された江戸美術という読み方と、現代美術という読み方の二通りがあるということだ。