16. 6月 2020 · June 16, 2020* Art Book for Stay Home / no.16 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『美のジャポニスム』三井秀樹(文春新書、1999年)

ジャポニスムは、19世紀以降ヨーロッパに渡った日本の浮世絵などが印象派やアール・ヌーヴォーに影響を与えた現象である。

そして1920年代にはそのブームは終わったとされる。

つまり美術史において、一時期のブームとしてとらえられているわけである。

しかし『美のジャポニスム』では、狭義の美術史のみで捉えず、現代デザインのあらゆるところで「日本の美の表現特性と造形原理は溢れている」と説いている。

アール・ヌーヴォーは、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した国際的な美術運動で、「新しい芸術」を意味する。

花や植物などの有機的なモチーフや自由曲線の組み合わせによる従来の様式にとらわれない装飾性を指している。

つまりそれはデザイン領域において顕著に行われた運動であるわけだが、その後のデザイン表現におけるジャポニスムについては美術史から消えている。なぜなのか。

それは、20世紀以降のデザインが爆発的に大発展を遂げ、美術史の領域からはみ出してしまったことに起因している。

デザインに造詣が深い著者が、20世紀以降のデザインにおけるジャポニスムの問い直しをおこなったのが本著である。

大ブームというのは、ブームとともに消えるわけではなく、吸収される形で変容していくものである。つまりデザインはジャポニスムと一体化していったということである。

「欧米の美術史研究におけるジャポニスムの影響の過小評価の要因として、(中略)欧米の研究者は、二つの大戦を挟んで日本の帝国主義に反発し、欧米の伝統的美術の優位性という愛国的精神によって、アール・ヌーヴォーへの日本美術の影響を全面的に認めようとしない精神的土壌が出来上がってしまったのではないか」と述べていることは非常に興味深い。

私たちが美術史と呼ぶものは、ギリシャからローマ、フランスを中心とした西洋美術史を中心としたものである。

20世紀以降が主となるデザイン史は、日本のイニシアチブを除いて語ることは不可能であることを考え合わせると、ジャポニスムにおける著者の捉え方は極めて説得力に満ちている。

グラフィックデザイン、ファッションデザイン、プロダクトデザイン、建築における日本のデザイナーの国際的活躍は、広く世界に認知されていることを考え併せた上で読みたい。