19. 6月 2021 · June 19, 2021* Art Book for Stay Home / no.68 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『大量生産品のデザイン論』佐藤卓(PHP新書、2018年)

佐藤卓さんと初めてお会いしたのは25年くらい前だったと思う。私が45歳、卓さんが40歳であったと思う。多人数が参加する何かのパーティーであった。初対面でいきなり人懐っこい笑顔が印象的だった。卓さんと呼ぶのはその気さくで親しみやすいキャラクターによるが、グラフィックデザイナー業界では、U.G.サトー、佐藤晃一、佐藤可士和らたくさんの著名な佐藤さんがいることにもよる。そのパーティーのアトラクションで卓さんは自らのサルサバンドで見事なパーカッション演奏を聴かせてくれたのも印象的だった。

卓さんは社団法人日本グラフィックデザイナー協会の会長であり、現在日本を代表するトップグラフィックデザイナーの一人であるが、いわゆるスターデザイナーではない。日本を代表するグラフィックデザイナーと言えば、東京オリンピック1964のポスターをデザインした亀倉雄策など、華のある代表作で紹介されてきた。ところが卓さんの代表作と言えば、「ロッテクールミントガム」のリ・デザイン、「おいしい牛乳のパッケージ」。最近では、「デザインあ」の企画・ディレクション、「デザインの解剖」企画・ディレクション、「21_21 DESIGN SIGHT」のディレクションとか、どこが凄いのか一般人には何だかピンとこない仕事である。

卓さんはデザインがかっこいいとかオシャレであるとか、そういう20世紀の価値観で評価を受けるデザイナーではない。現代から未来に向けて大切なデザインとはなにか、デザインとは本来どういうもので、どうあるべきなのかを真正面に向き合って来たデザイナーである。当然、大学からも多く勧誘がある。しかし卓さんは、研究・教育の大学という場ではなく、社会におけるデザイン実践において活動し続けているのである。

デザインの誕生は産業革命時代における量産がきっかけであるが、グローバル時代における現代の超大量生産時代においては、生産品とはデザインそのものであって、デザインが果たす社会的役割、責任は極めて大きい。派手にパッと売れるデザインではなく、地味であるが長く売れ続けるデザインが求められる。そこでは、「資源の問題、製造コストの問題、流通の問題、廃棄の問題など社会的な問題と強く結びついている」と卓さんは言う。

デザインにおける膨大な難題に解決の道をつけ、デザインの未来を切り開きつつある卓さんには、大きなコミュニケーション力がある。初めて会ったときからフレンドリーでチャーミングな笑顔は、この人といっしょに仕事がしたいという魅力に溢れている。

08. 6月 2021 · June 8, 2021* Art Book for Stay Home / no.67 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『踊り候え』鴨居 玲(風来舎、1989年)

57歳、排ガス自殺の鴨居玲、生前のエッセイを集めたものである。一部追悼文も添えられている。あの生死を見つめ、突き詰めて描くような絵と自殺者の著書となると、相当に重苦しいことが予測されるが、幸いにも期待を裏切って読み手を楽しくさせてくれる。楽しいが、徐々に自ら死に追い詰めていくであろうことが予測されて、やはり楽しい中にどこか重苦しさがある。鴨居玲は自らに厳しい、いくらユーモアたっぷりに語ったとしてもどこかで自らを責めている。

「人間の生き方として圧倒的なショックを受けたのは、エディット・ピアフという歌手です。この人の伝記で『わが愛の讃歌』という本があるのですが、その本を読んでショックを受けた私にとって聖書のようなものです。あれだけ自分を傷つけて傷つけて、そのかわり何というのか、そのために自分が昇華されていって・・・・・。すごい人がいるものですね。ちょっとおそろしくなるってくる。」

恐ろしいと言いつつ、どこかで憧れている。ものすごくストイックで、一方でだらしない鴨居がいる。私などは、甘いだらしない自分を愛すべき自分として、簡単に許してしまう。鴨居玲はそういう自分を許せないでいる。なぜか、「描くモチーフにいわゆる底辺の人間が多いようですが」の問いに「別段にそんな意識はありません。ただ私は人間の心における暗い面、弱い面といったところに興味をひかれるんです。」そしてその興味の先にいるのは自分なんだと。

「昨夜、私はまたあるインタヴューに答え、人間とはなにか、人生とはなにか、絵とはなにか、とうとうと語ってしまった。何故てらうこともなくもっとお金もほしい、名誉もほしい、地位もほしいと言うことができないのであろうか。」
こんなにも自分のことが解っているのだ。そんな鴨居玲を愛しく愛おしく思いながら「踊り候え」を読み終えた。

画家の中には命と引換えにしてまでも、名作を生み出す者がいる。