23. 4月 2022 · April 23, 2022* Art Book for Stay Home / no.91 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『廃仏毀釈―寺院・仏像破壊の真実』畑中章宏(ちくま新書、2021年)

廃仏毀釈については随分と長い間、私の中でモヤモヤとしていた。中学校の歴史の時間に明治維新について、「廃藩置県」「富国強兵」「廃仏毀釈」と学んだ。廃仏毀釈とは、「仏教を排斥し、寺などを壊すこと。明治維新の神仏分離によって起こった仏教破壊運動。」と習った記憶があるものの、私の村には寺があったし、修学旅行で行った奈良や京都にも立派な寺や仏像があった。

実態がよく解らないまま何年も経った。20年ほど前に中津川にある苗木城阯を訪れたとき、そこの苗木遠山資料館で廃仏毀釈の一つの実態を知ることになった。当時苗木藩で行われた廃仏毀釈は、他藩では類例を見ないほどの激しい徹底したお寺、仏像、仏具、経典の破壊が行われた。その結果現在でも旧苗木藩地区ではお寺は存在しない。

本著によると、廃仏毀釈は極めて複雑で、藩ごと、地域ごと、寺ごとによって対応が異なった。誕生したばかりの明治政府の考えも、明治天皇の神格化にともない神社を特化させなければならない事情のもとに行われたが、明治政府の混乱もあって、藩の対応が主となった。知事の立場も様々であり、寺院の力も様々であった。さらに地域住民の信仰実態も様々であり、廃仏毀釈を率先して実行した檀家もあれば、徹底して寺を守った例もあった。

それまでの歴史的状況は、武士が仏教寺院の力を利用して勢力を伸ばして来た流れ、神仏集合の流れありで、廃仏毀釈は混乱を極めた。四国八十八ヶ所の中にも神社がいくつも含まれていたり、神社の中に仏像が本尊として拝まれていたり、神社と寺院の区別がつかないものも多く存在した。神社には多く神宮寺という仏教寺院を抱えていたし、権現(神々を仏教の仏や菩薩が仮の姿で現れたものとする本地垂迹思想による)の存在は、廃仏毀釈に大きな壁となるものだった。権現には、秋葉権現、熊野権現、金毘羅権現、蔵王権現、立山権現、箱根権現など現在でも深い信仰を集めているものが多い。

現実には、多くの寺院が焼き払われ(鹿児島県は殆どの寺院が壊滅)、仏像・仏具が壊された。かろうじて難を逃れた仏像が、その後国宝、重要文化財になったものも多く存在する。読後、知識はふえたものの私のモヤモヤはさらに肥大した。

13. 4月 2022 · April 12, 2021* Art Book for Stay Home / no.90 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『鴨居玲 死を見つめる男』長谷川智恵子(講談社、2015年)

鴨居玲、3冊目の紹介である。1冊目は鴨居玲自身によるエッセイ。2冊目は元神戸新聞文化部記者で美術評論家の伊藤誠による鴨居玲のエッセイ。本著は日動画廊代表取締役副社長の長谷川智恵子。日動画廊は鴨居が40歳のときに初めて個展を開いたところで、東京・銀座、大阪(現在は閉廊)、名古屋、福岡、軽井沢、パリ、台北にあり、さらに茨城県笠間市に笠間日動美術館がある、老舗で日本有数の画廊である。つまり長谷川と鴨居は互いにビジネスパートナーの関係にある。

鴨居は極めて端正なマスクで、180近い身長であることは多くの知るところであるが、そのことに長谷川は何度も触れ、さらにダンディでチャーミングであることを女性の視点から述べている。ビジネスで何度もパリ日動画廊に出張している長谷川は、その社交界で必要なパーティのパートナーに鴨居(パリ在住)を呼び出している。鴨居自身もパトロンでもある長谷川のリクエストに気持ちよく応えている。もちろん二人に親しいビジネスパートナー以上の関係はないことは明らかであるが、社交界での美男美女は互いに心地よかったに違いない。鴨居には同棲のパートナー富山栄美子がいて、長谷川には夫であり日動画廊社長の長谷川徳七がいる、エッセイにも度々登場している。

もちろん本著は鴨居の画家としての魅力、画家としてのナイーブな苦しみ、精神性、友の繊細な関係などが浮き彫りにされており、そのことが鴨居の絵の魅力にどのように関わっているかが興味深く書かれている。またそうした神経の迷走が自死に向かっていくことをどこかで判っていて「止めなければならない」「だが何もなすすべがない」長谷川の悔しさはどれほどのものであっただろうかが本著より伺い知れる。

救いは多くの名作を見守り、また笠間日動美術館にそれを収めることができたことであろう。そうして私たちは今、鴨居玲に会うことができる。