23. 6月 2020 · June 21, 2020* Art Book for Stay Home / no.18 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?経営における「アート」と「サイエンス」』山口 周(光文社新書、2017年)

 

本著を読むきっかけとなったのは、友人でもある金融関係のトップマネージャーの方のお薦めである。「既にお読みかと思いますが、大変興味深い本ですね」とお話しいただき、Googleで調べてみたら既に専門書のベストセラーだった。

少し残念だったのはビジネス部門ではなく美術部門であったこと。

 

この書名の「エリート」は、ビジネスエリートのことを指している。そしてこの本は美術ファンに対して書かれたものではなく、ビジネスマンに向けて書かれた本である。

グローバル企業が、その幹部候補をアートスクールや美術館が開催するギャラリートークに送り込んで来るようになっているというのである。

それはかっこいい教養を身につけるためではなく、ビジネスにおける極めて功利的な目的のために「美意識」を鍛えているのだ。

 

これまでビジネスは、「分析」「論理」「理性」に軸をおいた経営、いわば「サイエンス重視」であった。

それは既にAIの領域となりつつあり、ビジネスエリートが身につけるものではなくなっている。

AIによる分析や判断は、どの企業も平等に取得できるものであり、また今日のように複雑で予測不可能な世界において、ビジネスの舵取りはできないことを知るからである。

 

現代美術は、論理的、理性的情報処理を否定するものではなく、それらを取り込み、超えて自己実現を目指す。

「偏差値は高いが美意識は低い」人間は決してAIを超えることはできない。

「美意識を鍛える」ためにはどうするのか。美術館は極めて大きな可能性を持っているが、哲学、モード、文学(詩)に美意識の根源があるという。

近年、エリートの塊のような官僚の崩壊がとりざたされているが、彼らが極めて美意識が低いことと無関係ではないと思う。

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