21. 5月 2021 · May 21, 2021* Art Book for Stay Home / no.65 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『アート・マネージメント 画廊経営実感論』佐谷和彦(平凡社、1996年)

アートマネージメントとは何か、一般には「美術、音楽や演劇などの芸術活動を支援する際の方法論。」と理解されているが、それは間違っていると思う。そもそも芸術活動が精神の純粋な発露で、経済活動とは無縁なイメージを有していることから支援という言葉が使われてしまっている。

美術手帖のART WIKIによると「芸術・文化活動と社会をつなぐための業務、もしくは方法論やシステムのこと。確たる定義をもつ職種名というよりは、アートに関わるマネジメント業務全般を指す用語として広い意味で使われる。」こちらの方が正しいだろう。

アート・マネジメントは1960年代のイギリスとアメリカでほぼ同時期に使われるようになった概念で、美術史、美術論から考えればいかに最近の用語であるかがわかる。大学では1990年に慶應義塾大学で初めて「アート・マネジメント」の名を冠した講座が開設された。その講座に年2回ゲストスピーカーとして講師を務めたのが、佐谷画廊の佐谷和彦、著者である。美術と社会をつなぐ最もリアルな現場が画廊である。画廊では取り扱う全ての美術作品に価格設定を行い、作品の売買を行う。アート・マネージメントは必ず売買と関わるものではないが、そのことを無視して多くの芸術・文化活動は成り立たない。美術館で開催される展覧会では価格表示が無いが、所蔵作品は購入金額というものが存在するし、寄贈による場合でも想定価格というものがある。また借用による展示であっても、作品には保険がかけられる。その際作品価格に対して保険額が設定される。

本書『アート・マネジメント 画廊経営実感論』は慶応大学での講座ノートをベースに書かれたものである。著者の立場から「画廊経営論」としても書かれている。因みに私も「スペースプリズム」という小さな画廊を30年以上経営しているが、その経験から鑑みて本著は細部に渡ってリアルであり、具体的に作家、作品を例にとって説明が行われている。作家、美術愛好者にとっても大変興味深い内容となっている。

画廊を経営していると時々相談を受ける、「美術が好きで画廊を開設したいのだけれど、どう勉強したら良いでしょうか、作家を紹介していただけますでしょうか」というもの。「儲からないですよ」と言えば「儲けは気にしません、社会に文化貢献できれば」という答え。文化貢献するためには、作品を買い上げて作家活動を支援するというシンプルな方法がある。その前に先ず本書をお読みすることをお薦めする。