『書とはどういう芸術か 筆触の美学』石川九楊(中公新書、1994年)
真正面から切り込んだ凄い書名だ。「書とは芸術か」ではない。
もちろん芸術ではあるけれど、「どういう芸術か」という問いである。そしてタイトルにズバリその答え「筆触の美学」を連ねている。
この「書とは・・・」に「絵画とは・・・」「デザインとは・・・」「工芸とは・・・」「写真とは・・・」「サブカルチャーとは・・・」あるいは「映画とは・・・」「演劇とは・・・」「俳句とは・・・」を考えてみると、いかに著者自らに厳しい書名(テーマ)を持ち込んだかがわかる。
そして本著ではその「書とは・・・」について徹底した論証を行っている。広く芸術について考えてきた私の大きな死角「書」についてサーチライトを当てるかのような本書である。
石川九楊は自ら書家であり、書道史家でもある。
1963年弁護士を目指して京都大学法学部に入学したが、弁護士を断念して書の道に進む。
書家として、書道塾経営者として、あるいは書著述家として生計を立てることは大変困難であることは想像に難くない。
そうした強い覚悟のもとに50冊を超える著述がある。私は書とは別の『〈花〉の構造 日本文化の基層』(ミネルヴァ書房)2016年刊も読んだが、「花とはなにか」の真に迫る論であった。
多くの市民・県民ギャラリーで書道展が活発に開催され、またあるいは市展・県展においても書道部門は必ず一角を占めている。一般感覚では「書は芸術である」と認識されているものの、実態は極めて希薄である。
これまでの書に関する位置づけでは「書は美術ならず」「書は文字の美的工夫」「書は線の美」「書は文字の美術」「書は人なり」など、芸術に関わって賛否迷走してきたのである。
2019年8月から10月、古川美術館ならびに分館為三郎記念館において、特別展「第二楽章〜書だ!石川九楊」が開催された。会場で初めて九楊さんにお会いした。心技体磨き極めた孤高の武人のようだった。