『とりあえず、絵本について』五味太郎(リブロポート、1981年)
タイトルに「絵本」が付いて、著者が五味太郎。
これはもう楽しい絵本、あるいはそのような本に違いないと思ってしまう。ところが本文236ページのうち絵は17ページ、絵についてはちょっと期待はずれかも知れない。
日本におけるプロの絵本作家は200人ほどで、そのなかから画家やイラストレーターなど除いて主に絵本だけで生活が成り立っている人は10人といないと言われる。
これまで450冊の絵本を出版している五味太郎は日本を代表する絵本作家である。もちろん販売数も極めて多い。
我が家の100冊ほどの絵本蔵書の中にも、五味太郎作は10冊ほどあって、なかでも『みんなうんち』(福音館書店)は二男の愛読書だった。
『とりあえず、絵本について』は、絵本について殆ど書かれてない。
では何が書かれているのかと言うと、五味太郎の脳内風景である。妄想、想像、思想、感想である。
「あっ、五味太郎さんはこんなことを考えているんだ」という本である。相当にユニークである。
絵本は素晴らしい世界、子どもたちが夢中になって何度も何度も繰り返し読む、読んでくれとねだる。
自分もそういう子どもであった記憶のまま大人になって、自分も絵本を作りたいと思う、絵本作家になりたいと思う。美術大学やデザイン専門学校を卒業して、絵本作家を目指す。
しかし絵本作家になれるのは極めて稀である。狭き門である。絵本が売れなければ絵本作家ではない。小説が売れなければ小説家ではない。曲が売れなければ作曲家ではない。
絵本作家になるために、絵本や絵を一生懸命学んでも魅力的な絵本作家になることは難しい。
絵のための絵、絵本のための絵本はつまらないのだ。作者の魅力が絵になり、絵本になる。
五味太郎の絵本がおもしろいのは、五味太郎がおもしろい、考えていることがおもしろいからだ。
作家になっても良かったのだろうけれど、文章を書いているよりも、絵を描いているほうが圧倒的に好きだったのだろう。
そんなことがわかる『とりあえず、絵本について』。