16. 5月 2020 · May 16, 2020* Art Book for Stay Home / no.5 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『この骨董がアナタです。』仲畑貴志(講談社文庫、2003年)

骨董の本か、「君子危うきに近寄らず」関わらない方が身のためだな。という第一印象を持たれた方が多いのではないか。

「骨董はおもしろそうだな」という気持ちは抱いていても、いいものはとてつもなく高そうだし、テレビの「開運!なんでも鑑定団」を観ていると、良くないものを高額で買ってガッカリということが多すぎるではないか。

私もそう思う。私は友人の陶芸作品(ぐい呑)をたまに購入することはあるものの、骨董と呼ばれる古いものは一点も持っていない。

その上で、骨董の本『この骨董が、アナタです。』を推薦。著者の仲畑貴志はトップコピーライター、広告界の重鎮である。東京コピーライターズクラブ新人賞から数多くの受賞歴があり、現在は東京コピーライターズクラブ会長。

主なコピーに「タコなのよ、タコ。タコが言うのよ。(サントリー・マイルド・ウォッカ樹氷)」「知性の差が顔に出るらしいよ……困ったね。(新潮社・新潮文庫)」「おしりだって、洗ってほしい。(TOTO・ウォシュレット)」「ココロも満タンに、コスモ石油。(コスモ石油)」など。

要するに私は骨董への興味よりも仲畑貴志への興味でこの本を読んだ。予想を超えておもしろかった。

仲畑は骨董を買い始めてたったの10年、初心者なのだ。初心者は当然失敗する、有名人の失敗はおもしろい。その上さすがトップコピーライター、文章が上手い。読者を笑わせながら、きちんと骨董の魅力を伝えていく、さすがである。

この本の表紙を見て欲しい。「の」「貴」「薫」が傾いていて、「タ」と「で」が左右にズレている。

仲畑の友人でありやはりトップデザイナーの葛西薫の装丁デザインであるが、つまりこの本はちょっと信用できませんよ、と茶化しているのだ。

骨董を買うほどお金がないけれど、骨董っておもしろそうだ、人が買って失敗するのを見るのは、なおおもしろい。そんな「開運!なんでも鑑定団」好きの私のような人におすすめの本である。

骨董が並ぶ陶磁器展に出かけていって「ふむふむ、なるほど」とちょっと解っている風の観覧者くらいにはなれた気がする。

 

16. 5月 2020 · May 14, 2020* Art Book for Stay Home / no.4 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『日本の色のルーツを探して』城一夫(パイインターナショナル、2017年)

色彩に関する本は多く出版されている。

少し大きい本屋ならコーナーがあるくらいである。

私も職業柄20冊ほど色彩に関する本を所蔵している。

その中で最も興味深く、かつ秀逸なのがこの本である。

色に関して多くの人が根拠としているのは、中学生の美術の時間に習った色彩論である。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの著書が基礎となっており、有彩色、無彩色、色相環、彩度、明度というあれである。

非常に合理的な科学色彩論であるが、この色彩論に縛られた思考は、豊かな色彩感覚を奪っていくと私は考えている。

色は知性ではなく感性というのが私の考えである。

その理由は、私たちが見る色に、そもそも有彩色、無彩色などなく、彩度、明度を測る事のできる色はないからだ。全て科学的理論上の色として、有彩色、無彩色、色相環、彩度、明度が存在しているに過ぎない。

私たちが見る色は、薔薇の赤い花弁であり、白いシャツであり、空の多様な色である。色は必ず何かの物体であり、物体のテクスチュアー(質感)と共にある。

そして必ず光が存在しており、光の量によって見え方は変わる。

さらには色にはイメージがあって、イメージは人それぞれに異なる。赤い色を見て、薔薇の花弁を思う人、リンゴ、炎、金魚、唐辛子、あるいは服やソックス、ルビーを思う人もいるだろう。それぞれのイメージが同じ色に対して影響を与える。ゲーテの色彩論を独立して見ることは不可能である。

さて本著『日本の色のルーツを探して』であるが、この本の優れているのは「日本の」にある。気候風土、歴史、文化を共通にしていなければ、色について共に語ることは困難である。私たちは色に対してどのような共通イメージを持っているのか、それは一体どこから来ているのか。

本の帯には「日本古来の神々の色、陰陽五行説の色、武将たちに愛された色、雅な平安の色、粋な大江戸の色彩から、昭和の流行色まで、ビジュアルで辿る日本の色を探る旅」と内容をズバリ紹介している。

この色彩の旅は、とても楽しい。