『十二支のかたち』柳宗玄著(岩波書店、1995年)
アートを表現するにあたって、イメージの源泉というものがある。誰もが何の体験も知識もなく表現するということはありえない。それは母の子宮の中から始まるとしても、やはり体験であると言える。幼い子どもが描くものであっても同様のことが言える。幸いなのは幼い子どもというものはつまらない理屈付を持っておらず、イメージが自由なことにある。
さて、「十二支のかたち」であるが、この多くの日本人が知識体験として持っているものは中国・漢代あるいは戦国時代に誕生したとのことである。十二支たちは世界各地の壁画や浮き彫り、祭具や染織・日常雑器などに造形されてきた。現代の我々には、そうした圧倒的な知識や造形、イメージを望まないとしても染み付いているのである。であるならば、さらに深く関わり、イメージの源泉としたい。十二支は東洋人のみならず、人類の知的財産でもある。
『十二支のかたち』は造形に関わるアーティスト、デザイナー、工芸家たちにとっての手引書である。子(ねずみ)から始まり亥(いのしし)まで、一支の総論と左右のページで図版、写真とその説明というように、事典展開されている。本著は何も造形制作に関わる者たちだけのものではない。年に一度年賀状を楽しんだり、物見遊山の観光で出会う十二支にちょっと興味を拡げてくれる手引書である。十二支の膨大な造形は、もともと民衆の知恵とユーモアが結晶したものである。
読み終えて、わが干支である寅を再読、なんとなく虎神に護られているような心強さを持った。