『ユトリロの生涯』J.P.クレスペル、佐藤昌訳(美術公論社、1979年)
近代美術史において欠かすことのできないモーリス・ユトリロ、日本においても人気の高い画家である。しかし画集やハンディな紹介本はあるものの、日本の評論家・美術史家による著作は残念ながらない。本著はフランスで出版された多くのユトリロに関する著作の中の数少ない日本語訳である。ユトリロに関する全人生をくまなく網羅したまさに「生涯」である。
ユトリロがどのような画家であったかを一言で語るなら「酔っぱらい画家」である。もちろんパリ人にとって酒といえばワインとブランデー、そして安酒アブサント。ユトリロは育児放棄の若い母シュザンヌ・ヴァラドンに代わって祖母マドレーヌに育てられたが、マドレーヌはユトリロの機嫌を取るために8歳よりワインを与えた。以来ユトリロはひたすらワインを呑むアルコール中毒となり、それは精神異常とみなされることも度々あり精神病院の入退院を繰り返した。また泥酔して警察のお世話になることも度々あった。一晩で3リットルも4リットルも飲み干したことが常習化していた。
救いは、絵を描くことであり、酔っ払って絵を描くのではなく、絵を描きその絵でワインを呑むために描くのである。それはユトリロの絵が高額になっても続けられ、高額な絵も一本の安ワインにしかならないことも普通であった。絵を売るというマネージメントの才能は全くなく、販売は主に母ヴァラドンとその夫ユッテルに委ねられた。そして利益は二人の遊興費に当てられた。
因みに、ヴァラドンは私生児であり、その子ユトリロも私生児であった。義理の父ユッテルは、元々ユトリロの画家友だちで2歳年下であった。ヴァラドンの誘惑によって二人は結婚し、ユッテルはユトリロにとって友人から年下の義父となったのである。
様々な混乱と苦悩の中でユトリロは70歳までの人生を画家として全うし、美術史に名を刻んだ。本著は伝記に近いものであるが、ユトリロを知り、その絵を理解する優れた一冊である。

