『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』山本浩貴(中公新書、2019年)
現代美術に関する著作を多く読んだ。「現代美術とはなにか」の答えは、多くの現代美術を観ることと、現代美術に関する著作を読むことであると確信するからである。そして多くの著作は「現代美術とはなにか」「現代美術入門」「現代美術事典」というもので、難解とされる現代美術の解説であった。
本著は「現代美術史」つまり「現代美術+美術史」である。これまで私の読んだ現代美術に関する本の中で「美術史」として捉えたものはなかった。歴史は過去のものであり、過去に遡って俯瞰することにより、どのような時代であったかを述べているものである。現代という時代は我々の生きているそのものであるので、歴史として捉えるには極めて困難である。本著における現代美術の定義が大きくものを言う。本著では現代美術を20世紀以降とし、特に第二次世界大戦後の現代美術を徹底解説して歴史として意義付けている。
現代美術が難解なもう一つの理由に、西洋美術史や日本美術史のように地域を限定しては語れないところにある。それをインターナショナルであるとか、グローバルであるという視点ではなく、トランスナショナルとしている視点が本著の極めて優れたところであると思う。現代美術の特徴として、ある都市で起きた事象、生まれた作品は、一瞬に他都市、あるいは都市という単位ではなく個人に転移する。インターネットによる情報は、美術に限ったことではなく、社会が反応して歴史が動いている。帯に「民族」「ジェンダー」「貧困」「差別」「戦争」「震災」「五輪」「万博」とあるが、現代美術がいかに世界の社会問題と関係しているかが本著のテーマでもある。「トランスインターナショナル」とした著者の視点に感服する。