『風の旅人 ウインドキャラバン』新宮晋(扶桑社、2002年)
新宮晋は「風の彫刻家」あるいは「風と水の彫刻家」として極めて著名である。その活躍は、1970年の大阪万国博覧会で人工湖に「フローティングサウンド」を制作して以降、国内外において常に欠くことのできない存在であった。多くの野外彫刻展での受賞、パブリックスペースでの作品設置、芸術イベントへの招待等数え切れないが、多くの著名な美術家の評価に比べれば、新宮の評価は今一つに思われるのは私だけだろうか。その要因の一つは野外彫刻という領域に限定されての活動にあると考えられる。しかし、ここでそのことを掘り下げるのは本来ではないので、詳細は省く。
さて本著はアートプロジェクト「風の旅人 ウインドキャラバン」の記録であり、プロジェクトを通じての新宮のアートメッセージ集でもある。プロジェクトは2000年から2001年にかけて行われており、21世紀の扉に希望的アートを展開するという新宮の意思も含まれている。この作品は21点の風で動く彫刻を野外展示するというものだ。キャラバンの目的地は、アトリエ前の棚田(兵庫県三田市)から始まり、先住民族の島ニュージーランド・マオリのモトゥコレア島、極寒(マイナス28度)のフィンランドのイヴァロでの湖上、水も電気もないモロッコ・タムダハト(昼間は30度)、遊牧民地区のモンゴル・ウンドゥルドヴ、砂丘のブラジル・クンブーコの五大陸である。海外5ヶ所は、いずれも極めて過酷な環境にあり、先住民ら民族色の強い場所が選ばれている。期間中新宮は何度も日本に戻り、また仕事や開催地のミーティングのために、移動している。作品は分解、組み立てとし、コンパクトに6メートルのコンテナに収められ、海から陸を移動する。
新宮は、1987年から89年にかけて、「風の野外彫刻展 ウインドサーカス」をニューヨークはじめ9都市において開催している。「風の旅人 ウインドキャラバン」は、前プロジェクトを前提とすべきであろう。
新宮の言葉「自然破壊や温暖化、飢餓の問題、それに絶えることのない争いで今や 未曾有の危機に瀕している、私たちの美しい星『地球』。その自然の大切さを訴えるために、私に出来ることはないだろうか。地球がとびっきりユニークで素敵な星だということを、私らしいやり方で証明する方法はないだろうか。」をピュアな感情で受け止めたい。