05. 5月 2024 · May 5 2024* Art Book for Stay Home / no.140 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『裸の大将一代記―山下清の見た夢』小沢信男(筑摩書房、2000年)

山下清に関する本は、画集を含めると数十冊出ているようだが、本著はその中でも山下清を知る上で屈指のものであるだろう。一代記にふさわしく、生い立ちから墓場まで、丁寧にその人生を紹介している。

著者小沢信男は、1927年東京生まれ(山下より5歳下)、日大芸術学部卒業。小説・詩・戯曲・評論・俳句・ルポルタージュなど多岐にわたる執筆活動を展開し、著書多数。 本著で桑原武夫学芸賞を受賞している。山下とは戦前、戦中、戦後の同時代を生き、山下の生きた時代とはどういうものであったか、リアルに解説されている。著者は、山下と会うことはなく、本著は放浪日記と周辺人物の丁寧な取材によって、山下の個性、人間的魅力を立ち上がらせている。

山下清については、その絵画作品から「日本のゴッホ」と呼ばれたり、演劇、映画、テレビドラマが人気を博したところから、本人とは異なるイメージのキャラクターが生み出されている。また山下自身が人前ではそのようなキャラクターを演じた節もある。特に高視聴率を獲得した芦屋雁之助主役のテレビドラマの影響は大きい。それ故に本著の山下清は良くも悪くも本人に迫っており、新たな山下清の魅力に引き込まれていく。

12歳で預けられた知的障害者施設「八幡学園」の久保寺保久園長、学園の顧問医を務めていた精神病理学者式場龍三郎、八幡学園の園児たちの貼り絵に注目した早稲田大学講師の戸川行男らの「素晴らしいもの、輝くもの」を見る目の知性に大きな共感を覚えた。そういう意味では著者小沢信男もまた公正な知性を持つ一人であり、「山下清に出会ったことがない。その残念さが幸運におもえてきた。」というように、あくまでも客観的に山下清を捉え、そこから山下清の魅力に迫ろうとした著である。

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