2019年10月、イラストレーターの和田誠さんが亡くなられた。
私も何度かお目にかかっており、周りの全ての人が「和田さん」と呼ぶように、ここでは和田さんと呼ばせていただく。
奥様のシャンソン歌手・料理愛好家の平野レミさんも和田さんと呼ぶ。
“illustration”誌特集よりその活躍を拾いながら、和田さんを紹介する。
和田さんより先輩のイラストレーターは、挿絵画家と呼ばれることが多く、仕事も週刊誌や新聞の挿絵が多かった。
イラストレーターとして和田さんは最初の人で、挿絵以外にデザインや広告の仕事をこなす最初の人であった。
ほぼ同時に横尾忠則、宇野亞喜良、粟津潔、伊坂芳太良、山口はるみらイラストレーターが登場している。
タイトルに「多才な偉業」と述べたが、その主なものを羅列する。
多摩美術大学図案(現デザイン)科の時代から、当時デザイナーの最高峰である難関、日宣伝美術会に入選、頭角を現す。
1959年、当時トップのデザイン事務所、ライトパブリシティに入社。たばこ「ハイライト」のパッケージデザイン採用、他にキャノン、東レの広告デザインを担当する。
1968年フリーランスとなり、「週刊文春」の表紙(亡くなるまで続けて2000号を超える。今も過去の表紙から和田さんのデザインが続いている。)、星新一、村上春樹、丸谷才一、三谷幸喜らの装丁を担当する。
ジャズやシャンソンのレコード・CDジャケットも多い。
映画監督としても「麻雀放浪記」「怪盗ルビィ」などのヒット作を生み出している。
エッセイ、絵本も多く、著書は200冊を超えている。
テレビでは、「ゴールデン洋画劇場」「今夜は最高!」「サワコの朝」のタイトル画は、強く記憶に残る。なお「サワコの朝」は現在も放映中。
多分野における活躍は、多くの受賞にも現れている。
デザインでは毎日デザイン賞、日本絵本賞、日本宣伝賞山名賞、講談社出版文化賞(ブックデザイン部門)、ほか多数。著作では講談社エッセイ賞、日本ノンフィクション賞、菊池寛賞。漫画では文藝春秋漫画賞、日本漫画家協会賞。映画では毎日映画コンクール大藤信郎賞受賞、報知映画賞新人賞、ブルーリボン賞、淀川長治賞。
こうした多才多分野で活躍した作家に、先人では魯山人が上げられるが、多分野ゆえの評価が散漫になることが多い。
文化芸術においては、それぞれの活躍が足し算されて評価されるものではない。
さりとて一分野のみを取り上げて評価することは、決して頷けるものではない。
和田さんも魯山人も、それぞれの分野が決して独立しているわけではなく、互いに関係づけられた魅力を持っている。
どの分野の賞も、その専門において高く評価されたものであり、決してイラストレーターを前提に置かれているわけではない。
私がもどかしく思うのは、こういう多分野で秀でた作品を残した人は「器用な人」と称されることがあり、それが評価の引き算になってはいないだろうかということである。
和田さんは決してそのようなレベルの方ではなく、圧倒的な能力を有した作家である。
和田さんの声が聞こえる。「やれるなら、やってごらん」。