『きもの美 選ぶ眼 着る心』白洲正子(光文社知恵の森文庫、2008年)
本書は、『きもの美 選ぶ眼 着る心』(1962年、徳間書店)を一部写真入替え、文庫本化したものである。したがって書かれた当時52歳。46歳の時に銀座できものと工芸の店「こうげい」の経営に携わるようになった最中に書かれたものである。白洲正子は1910年生まれ、樺山伯爵家の次女として生まれ、14歳で渡米ハートリッジ・スクールに留学、帰国後19歳で白洲次郎と結婚。この世代としては早くから洋服を着こなす生活をしてきている。文庫本の表紙に能面が描かれているのは、正子が幼い頃より能を習い、14歳で女性として初めて能舞台に立ったこと。正子のきものに関する原点が能にあることによる。
私自身はきものを着ることは殆どなかったが、ふとしたきっかけで昨年末より積極的に機会を増やしている。女性のきものの装いは極めて惹かれるものがあり、その美しさに心を奪われている。本書を二度読んだのは、正子のきものに対する考えが極めて共感をよぶものであったからである。その美意識は、お出かけ訪問着(成人式や卒業式、きものを見せびらかすお茶会など)ではなく、普段着きものの美しさにある。
内容は、きものの歴史から紐解き、正子自身のきものとの関わり、きもののための織りについて、染について、それぞれの模様について、たっぷりと紹介がなされている。専門的な立場からの考え、職人の説明など、取材も徹底している。最後はきものの付属品(じゅばん、はきもの、アクセサリー)など紹介されており、きものの楽しさに浸ることができる。
きものに関して男性と女性の知識教養は大きな差があって、例えば着物を着て出かけた私に男性は「おっ、着物ですかいいですね」、女性は「あら、大島なのね素敵だわ」という具合である。例えば袖に関して男性のきものでは袖であるが、女性のきものでは、大袖、小袖、広袖、丸袖、角袖、削袖、振袖、留袖ほか多様である。生地、文様、小物などきもの好きの女性にとっては楽しいアイテムが無限なのだろう。