04. 8月 2022 · August 4, 2022* Art Book for Stay Home / no.97 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『常設展示室』原田マハ(新潮文庫、2021年)

6つの物語からなる短編小説集。書名『常設展示室』にあるように、全てが絵画に関わっての物語である。書店でこの本を手にとったのは、この書名によるところが大きい。欧米の美術館では基本的に常設展示というのは当たり前で、いつ訪れても大きく展示内容が変わることはない。一方日本の公立美術館の多くは企画展で構成されており、美術館運営費は主にここに費やされる。清須市はるひ美術館においては常設展示室を所有していないので、企画展示として所蔵作品を紹介している。愛知県美術館、名古屋市美術館など少し大きな美術館では、企画展示と常設展示の両室を持っているが、広報の多くは企画展示に使われており、美術館に出かけるというのは企画展示を観に行くという感覚になっている。企画展示が賑わっていても、常設展示は閑散としているというのが実情である。

さてそういう訳で常設展示室が書名になることは、一見地味である。しかしそこに美術館としての日常があり、そこに行けばあの作品に会えるという恒久性がある。物語はその魅力を持って読者を惹き付けている。そして美術に関わる多くの職業が登場人物となっていることもまた興味深い。画家、彫刻家はもちろん、学芸員、キュレーター、美術書出版社社員、画商、ギャラリスト、アートコレクター(美術品収集家)、美術史教授など、ちなみに美術館館長は登場しない。

そして、ピカソ、フェルメール、ラファエロ、ゴッホ、マティス、東山魁夷などの実在する6枚の絵画が物語を豊かに彩る。6つの物語に共通しているのは、「美術ってこんなに素晴らしい」というメッセージである。原田マハは実際に森美術館、ニューヨーク近代美術館に勤務し、キュレーターとして刺激的なアートシーンにいた。

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