『入江泰吉 私の大和路春夏紀行』『入江泰吉 私の大和路秋冬紀行』入江泰吉(小学館文庫、2002年)、『入江泰吉 万葉花さんぽ』入江泰吉/写真・中西進/文(小学館文庫、2003年)
手軽に手にとって楽しめる入江泰吉大和路写真とエッセイの3冊である。写真家や画家の自作説明本などというものは多くはないし、あまり読みたいと思うものではない。だがその創作の想い、手がかりというものは覗いてみたいものである。「私の大和路」は入江泰吉自身のエッセイで、「万葉さんぽ」は万葉集など古代文学を中心に研究する国文学者の中西進の文である。
入江は奈良に生まれ、東大寺の旧境内地で育ったという大和人である。大阪で写真店を開くものの戦災で消失。失意の中、戻ったふるさとで出会った大和の美しい風景、ひたすらに大和路とそこにある仏像に取り憑かれ、撮りつづけた。
入江が撮りつづける大和路も少しずつその美しさが失われていく。愛しむように、祈るように、残さねばならぬと命を削るように撮った風景がそこにある。戦後の50年、入江の感性と、撮影能力と、大和路への想いと、その時代にしかなかった風景が写真に残されている。
大和路を散策しなければこの風景と出会うことは敵わないというものではない。多くの日本人が、自らのふるさとに見ることができた何かがそこに写されていて、大和路の特別な風景であるはずのものが、誰もがなつかしく感動を蘇らせるものでもある。手元において、時おり広げるページには、幼き日に過ごしたなつかしさと、やさしさに包まれることができるだろう。