16. 6月 2023 · June 16, 2023* Art Book for Stay Home / no.122 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『異界を旅する能-ワキという存在』安田登(ちくま文庫、2011年)

能を見る機会は極めて少ない。これまで見た能は片手に収まる程である。機会も少ないが興味もあまりない。狂言や歌舞伎は見ているうちに結構早くおもしろさを知った。能もそうなりたいと思う。そんな気持ちで手にとった一冊である、著名『異界を旅する能』にも惹かれた。

能の物語は、生きている「ワキ」と、幽霊や精霊である「シテ」の出会いから始まる。この全くことなる役割で、シテが主役のように思える、ワキは脇役の脇に通じるもので、ワキを志す能楽師は少ない。安田登はワキである。ワキの意味とおもしろさ(もちろんそこには能そのもののおもしろさでもある)を語りながら、能とはどういったものかを述べている。

一方シテは「残念の者」である。何かの理由でこの世に思いを残してしまった者である。今なお霊界をさまよっているか、この世あの世の間をさまよっている。この象徴的な様子が揚幕から登場し、本舞台の間(橋かがり)に滑り出る。能の舞台設計がどこも全く同じなのは、能の物語が舞台の約束事の上に作られているからである。

能の世界を生きた人物として、三島由紀夫、芭蕉、夏目漱石が登場するが、三者を例に取りながら「異界とは何か」の話はとても解りやすい。そしてそれを現代の社会に置き換えて見ると、なるほど現代にも多く「能の異界」が存在する。生きている我々が異界をどのように捉え、関わればよいのか、能を殆ど見ることない状況ではその方法を知ることは少ないだろう。

46の能作品を紹介している、我々が歌舞伎や小説あるいは映画や演劇で知ったいくつもが、実は多くが能作品であったことを思うと、もっと能を知りたい。しかし読後の感想は「ワキを通じてわずかに能の片鱗に触れた」に過ぎない。

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