18. 5月 2023 · May 17, 2023* Art Book for Stay Home / no.120 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『絵金伝』山本駿次朗(三樹書房、1987年)

絵金といえば、江戸時代末期から明治にかけての浮世絵師で、本名弘瀬金蔵、通称絵金。高知城下に生まれ、幼少の折から絵の才能で評判になり、16歳で江戸に行き土佐江戸藩邸御用絵師前村洞和に師事する。10年はかかるとされる修行期間を足かけ3年で修了し、林洞意(はやしとうい)の名を得て高知に帰郷、20歳にして土佐藩家老桐間家の御用絵師となる。

しかし、狩野探幽の贋作を描いた嫌疑を掛けられたことで職を解かれ高知城下所払いの処分となり、狩野派からは破門を言い渡される。その際、御用絵師として手がけた水墨画の多くが焼却された。洞意が実際に贋作を描いたかどうか真相は明らかではないが、習作として模写したものが古物商の手に渡り、町人の身分から若くして御用絵師に取り立てられた洞意に対する周囲の嫉妬により濡れ衣を着せられたのではないかと洞意を擁護する意見もある。

幕末の地方の絵師であるがゆえに、その詳細は不確かであろうと想像される。本著『絵金伝』はB6サイズで262ページ、論文ではなく、できる限りの事実に基づいた小説であると断り書きされている大変興味深い著である。

ところが、絵金は弘瀬金蔵のことであると同時に、土佐においては「えきん」は画工、画匠の意味があり、何人かの絵金が存在したという説がある。本著では弘瀬金蔵を指す「絵師金蔵」のほか、「島田介雄(高知の絵金)」、「辺見藤七(本山の絵金)」、「おたすけ絵師」と4人の絵金についてドラマチックに紹介されている。そしてそれら絵師たちを支え芝居や後の映画、祭りなどで活気を呈した土佐人の気質が語られる。

日本美術史では稀有な庶民の美術が、かくも評価高く残ることの興味深さとともに、本著の大きな価値を受け止めた。

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