『江戸に学ぶ「おとな」の粋』神崎宣武(講談社、2003年)
柳宗悦が民衆の暮らしのなかから生まれた美の世界を紹介するため、1925年から「民藝」の言葉によって運動を展開した。今も民藝は美意識とともにその存在感を持ち続けている。古今東西、芸術・文化の根底なるものに民俗、風俗がある。芸術は民俗、風俗から無関係に登場するわけではない。江戸の風俗の粋を紹介した本著はアートの本ではないが、多くのアートファンはここにアートを見つけることができるだろう。
「粋」とは何かについては、九鬼周造の名著『「いき」の構造』がある。その上で本著に向かわれることをお勧めする。
アートに美しい形を見ようとするならば、美的造形を追求しようとする美術大学生のようなことをするよりも、美しい形になる心のありようというものを知るべきだと思う。その一つが粋である。「江戸に学ぶ『おとな』の粋」は、人と人の魅力的な関係の中に粋を見出し、大人の美を語る。
世の中「かわいい」が氾濫している。そこには「どうかわいいのか」問われない。問うては共感が崩れるかも知れないからだろう。殆ど「いいね」と同義語になっている。美を追求するアーティストやデザイナーにおいてもやはり「かわいい」がイージーに使われている。先日ちょっとした集いで、友人の女性が遠目には灰色に見える縞模様の浴衣を着てきた。大人の着こなしで、帯から半襟、小物まで行き届いた夏のおしゃれであった。「粋ですね、素敵です」という私の感想に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。しかし会場では「かわいい」の褒め言葉で溢れていた。