02. 9月 2020 · September 2, 2020* Art Book for Stay Home / no.33 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『余白の芸術』李禹煥(みすず書房、2000年)

2005年「李禹煥 余白の芸術」が横浜美術館で開催中に、NHK Eテレ「日曜美術館」で李禹煥が特集された。
本著『余白の芸術』表紙にも紹介されている一刷毛の絵がいきなり巨大キャンバスに描かれるシーン。
それだけで完成される極限のひと刷毛、テレビ映像は一切の音に沈黙させて李禹煥の刷毛を持つ手を追う。
描き終えるまで1分ほどだったろうか、果てしなく長い緊張が伝わってきた。
描き終えて、映像は李禹煥の顔、上半身、全体像へと引いていく。李禹煥の激しい呼吸が観ている私と一体化する。

翌週末、私は横浜美術館に向かった。日曜美術館で放映された作品をはじめ、そのシリーズが一室を埋めている。
単純な表現に見えて、深く、広く、長い、静かな時間が流れている。その表現時間に呼応するように長い時間をかけて鑑賞した。
李禹煥のメッセージ、「カンバスの上に一つの点を打つと、辺りの空気が動き出す。一筆のストローク、一個の石、一枚の鉄板は、外との対応において、漲る生きものとなり、物や空間が呼応し合って、鮮やかに響き渡る余白が生まれる。」以来私は李禹煥の虜になっている。

李禹煥は「もの派」の代表的な作家、この時点まではぶっきらぼうな名前の「もの派」に対して興味はなく、近づこうとは思わなかった。李禹煥から余白、余白から「もの派」、私の美の世界が拡大していく。

本著『余白の芸術』は横浜美術館ショップで求めたものである。
最初の一行は「アートは、詩であり批評でありそして超越的なものである。」一刷毛で完成する絵のような一文である。