16. 8月 2020 · August 16, 2020* Art Book for Stay Home / no.30 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『京都、唐紙屋長右衛門の手仕事』千田堅吉(生活人新書、2005年)

唐紙をご存知だろうか。
唐紙とは、中国から渡来した紙、ならびにそれを真似て造った紙をいう。
平安時代には書道や手紙など、貴族によって用いられた。中世ごろからは、主に襖のための加工紙の一種として用いられる。
本著では、京唐紙について「唐長」十一代当主、千田堅吉によって紹介されている。

天保10年(1839)頃京都に存在した唐紙屋は13軒あった。その多くは元治元年(1864)の蛤御門の変の「鉄砲焼け」で板木(はんぎ)を焼失したが、唐長は戦乱の火災から奇跡的に板木を守り抜く。数々の戦乱、天災など苦難を経て明治時代以後、人々の暮らしの変化に伴い唐長以外の唐紙屋は全て廃業。
江戸時代より途絶えることなく代々続いてきた唐紙屋は日本でただ1軒である。
ひとつひとつ手仕事で、代々受け継がれた板木の文様を和紙に写し取り、襖紙や壁紙として桂離宮、二条城、養源院などの歴史的建造物や、現代の人々の暮らしにおいても唐長の唐紙は用いられている。

技法的にわかりやすく言えば、和紙に木版画刷りの壁紙、襖紙ということである。
しかしその違いを一部紹介すると、木版画の場合は「版木」、唐紙の場合は「板木」の字を使う、読み方は「はんぎ」で同じ。また板木に和紙をあてる柄(がら)をつける技法は、木版画では「型刷り」、唐紙では「型押し」と呼ばれる。さらに版木に絵の具を刷毛で付けるのが木版画であるが、唐紙は「ふるい」で板木に絵の具をのせる。
こういう技法が歴史的建造物の保存に欠かすことができない。

唐紙に欠かすことのできない板木は、代々受け継いできたものが650枚、うち300枚が江戸時代に彫られたものであるという。
模様は多様であるが、伝統的な唐紙として無地感覚のものがある。一見紙の色のみで模様がないように見えるが、光が当たると淡く銀色に輝き、影になると黒く模様が浮かび上がる。これは紙に雲母(きら)を押したものである。室内に品よく存在し。ときに華やかな演出を創出する。

2006年にこの本を読み終えて、現物を観たくて京都の北に位置する唐長修学院工房を訪れた。見学者に公開されていて、板木をはじめ貴重な道具、壁紙を拝見した。

2012年、古川美術館分館爲三郎記念館で個展を開催させていただくことになった。
記念館は、初代館長故古川爲三郎の住まいで、没後、爲三郎の「わたくしが大好きなこの住まいを、みなさんの憩いの場として使っていただきたい」という遺志を受けて開館となったもの。
様々な展示に使用されてきたが、私の個展計画ため記念館をゆっくりと拝見すると、襖は唐長のものであることを知った。もちろん記念館を訪れる人には誰もが観ることができるのだが、雲母唐長は大変気づきにくい。
訪れる機会があったら、ぜひゆっくりと楽しんでいただきたい。
そうそう、夏の間は襖から簾戸に変わるので観ることができない、ご注意。