『日本の色のルーツを探して』城一夫(パイインターナショナル、2017年)
色彩に関する本は多く出版されている。
少し大きい本屋ならコーナーがあるくらいである。
私も職業柄20冊ほど色彩に関する本を所蔵している。
その中で最も興味深く、かつ秀逸なのがこの本である。
色に関して多くの人が根拠としているのは、中学生の美術の時間に習った色彩論である。ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの著書が基礎となっており、有彩色、無彩色、色相環、彩度、明度というあれである。
非常に合理的な科学色彩論であるが、この色彩論に縛られた思考は、豊かな色彩感覚を奪っていくと私は考えている。
色は知性ではなく感性というのが私の考えである。
その理由は、私たちが見る色に、そもそも有彩色、無彩色などなく、彩度、明度を測る事のできる色はないからだ。全て科学的理論上の色として、有彩色、無彩色、色相環、彩度、明度が存在しているに過ぎない。
私たちが見る色は、薔薇の赤い花弁であり、白いシャツであり、空の多様な色である。色は必ず何かの物体であり、物体のテクスチュアー(質感)と共にある。
そして必ず光が存在しており、光の量によって見え方は変わる。
さらには色にはイメージがあって、イメージは人それぞれに異なる。赤い色を見て、薔薇の花弁を思う人、リンゴ、炎、金魚、唐辛子、あるいは服やソックス、ルビーを思う人もいるだろう。それぞれのイメージが同じ色に対して影響を与える。ゲーテの色彩論を独立して見ることは不可能である。
さて本著『日本の色のルーツを探して』であるが、この本の優れているのは「日本の」にある。気候風土、歴史、文化を共通にしていなければ、色について共に語ることは困難である。私たちは色に対してどのような共通イメージを持っているのか、それは一体どこから来ているのか。
本の帯には「日本古来の神々の色、陰陽五行説の色、武将たちに愛された色、雅な平安の色、粋な大江戸の色彩から、昭和の流行色まで、ビジュアルで辿る日本の色を探る旅」と内容をズバリ紹介している。
この色彩の旅は、とても楽しい。