『踊り候え』鴨居 玲(風来舎、1989年)
57歳、排ガス自殺の鴨居玲、生前のエッセイを集めたものである。一部追悼文も添えられている。あの生死を見つめ、突き詰めて描くような絵と自殺者の著書となると、相当に重苦しいことが予測されるが、幸いにも期待を裏切って読み手を楽しくさせてくれる。楽しいが、徐々に自ら死に追い詰めていくであろうことが予測されて、やはり楽しい中にどこか重苦しさがある。鴨居玲は自らに厳しい、いくらユーモアたっぷりに語ったとしてもどこかで自らを責めている。
「人間の生き方として圧倒的なショックを受けたのは、エディット・ピアフという歌手です。この人の伝記で『わが愛の讃歌』という本があるのですが、その本を読んでショックを受けた私にとって聖書のようなものです。あれだけ自分を傷つけて傷つけて、そのかわり何というのか、そのために自分が昇華されていって・・・・・。すごい人がいるものですね。ちょっとおそろしくなるってくる。」
恐ろしいと言いつつ、どこかで憧れている。ものすごくストイックで、一方でだらしない鴨居がいる。私などは、甘いだらしない自分を愛すべき自分として、簡単に許してしまう。鴨居玲はそういう自分を許せないでいる。なぜか、「描くモチーフにいわゆる底辺の人間が多いようですが」の問いに「別段にそんな意識はありません。ただ私は人間の心における暗い面、弱い面といったところに興味をひかれるんです。」そしてその興味の先にいるのは自分なんだと。
「昨夜、私はまたあるインタヴューに答え、人間とはなにか、人生とはなにか、絵とはなにか、とうとうと語ってしまった。何故てらうこともなくもっとお金もほしい、名誉もほしい、地位もほしいと言うことができないのであろうか。」
こんなにも自分のことが解っているのだ。そんな鴨居玲を愛しく愛おしく思いながら「踊り候え」を読み終えた。
画家の中には命と引換えにしてまでも、名作を生み出す者がいる。