『幻の美術館 甦る松方コレクション』石田修大(丸善ライブラリー、1995年)
2020年1月3日から3月15日まで、愛知県美術館で開催予定であった「コートールド美術館展 魅惑の印象派」は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため3月1日をもって急遽閉幕となった。
多くの人の生きる歓びを奪う形で美術館、コンサートホール、劇場、映画館が閉館を余儀なくされた。
私は幸い1月3日に本展を観ることができた。
ロンドンのコートールド美術館は、イギリスが世界に誇る印象派・ポスト印象派の殿堂。
美術館の改修工事のために、マネ、ルノワール、セザンヌ、ゴーギャンなどの代表作が展示された。
美術館の創設者サミュエル・コートールドはイギリスの実業家で、卓越した審美眼を持つコレクターでもあった。
1920年代を中心に精力的な収集を行い、1932年、ロンドン大学に美術研究所が創設されることが決まると、コレクションを寄贈。研究所はコートールド美術研究所と名付けられ、その展示施設としてコートールド美術館が誕生した。
私がここで注目したいのは、美術作品のコレクターという、鑑賞者とは異なるもう一つの眼である。
作品を鑑賞するときに、コレクターの視点に立ってみて、作品のどこに魅力を感じてコレクションをしたのだろうと考え、その答えを見つける歓びが個人コレクションの魅力である。
さて本著『幻の美術館 甦る松方コレクション』に紹介されているのは、1910年代から20年代にかけて、私財を投じて西洋の絵画や彫刻を買い集めた松方幸次郎のコレクションの話である。
松方幸次郎は川崎造船所(現在の川崎重工)初代社長で、一人でも多くの日本人に西洋美術を見せたいという強い情熱を持っていた。松方コレクションは戦中・戦後の激動期にその保存に悲劇の運命をたどった“幻のコレクション”である。フランス政府から寄贈返還されたものを基礎に、西洋美術に関する作品を広く公衆の観覧に供する機関として、1959年、国立西洋美術館として開館した。
大小様々なコレクションがあるが、それがどういうビジョンで集められたものであるか、芸術視野を通じて判断されることは美術史に大きな意味を持つ場合がある。
今あらためて、「松方コレクションを基礎とする国立西洋美術館」という呼び方をあえてしてみる必要があるだろう。