02. 2月 2023 · February 2, 2023* Art Book for Stay Home /no.111 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『黒い太陽と赤いカニ 岡本太郎の日本』椹木野衣(中央公論新社、2003年)

「岡本太郎とは何者か」という問いは太郎に限って非常に的を得たものである。正体が掴みにくいのである。一言で芸術家である。絵も彫刻もモニュメントも壁画も作るが芸術家であって美術家ではない。論述、エッセイは多いが著述家ではない。テレビにはいっぱい出ていたがタレントではない。有名な芸術家ではあるが、意外と作品集は少ない、没後出版が相次いでいるが。岡本太郎についての著述は、太郎も、養女敏子も美術評論家山下裕二なども太郎については絶賛型である。太郎全体がポジティブで覆われているのである。

椹木野衣の本著は、そういうポジティブなものではない。「岡本太郎とは何者か」に最も肉薄した一冊と言えるだろう。椹木の美術評論家としての経験も比較的浅い41歳という中、全力で太郎を暴いている。なぜ岡本太郎は美術家ではなく芸術家なのかが明解に著されている。

その根拠を示す。一つは長くパリに住んだが、パリは他のすべての美術を志すものたちが憧れて、学びを求めて住んだのに対して、漫画家と小説家の両親に連れられてやむを得ず住んだこと。先ずフランス語を身に着け、哲学、宗教学、芸術学を学んだこと。そこにはフランス芸術の尊敬はあるものの、コンプレックスはない。ただひたすら「芸術とはなにか」に終始して生きてきた。

一つは美術以前に父一平を通して漫画があったこと。現代においては当たり前であるが、少年時代に漫画にどっぷりと浸かり、その漫画を封印することで美術に向かうという生き方を世界で最初に実践した人であること。

そうした一般に美術を志した者とは大きく異る太郎であるがゆえに、べらぼうな『太陽の塔』があり、『縄文土器論』があり、メキシコで描かれた巨大壁画『明日の神話』がある。

若い椹木が太郎に押しつぶされないように、どれだけ太郎を調査し、追究したであろうかが確固たる論を敷くことで太郎絶賛型の口を封じたと言える。