15. 2月 2022 · February 14, 2022* Art Book for Stay Home / no.86 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『河北秀也のデザイン原論』河北秀也(新曜社、1989年)

『デザイン原論』は難しそうなことを書いてある本という印象である。読み始めてみると全く難しいことではない。まあ一つは私も河北と同じデザイナーであり、教職にあって、同世代であるというかなり近い立場にあるので「難しいことではないですよ」と言っても説得力がないかもしれない。

デザイン原論は究極のところ、「デザインとは何か」である。河北は「人間の幸せという大きな目的のもとに、創造力、構想力を駆使して、私達の周囲に働きかけ、様々な関係を調整する行為が『デザイン』である」と明言する。私も全く同感、機会あるごとに「デザインとは何か」を述べてきた。河北も私もそれを何度でも述べなければならない立場、機会にあったということだ。それはデザインが「色や形、素材などの造形的な行為を行って、シャレたもの、流行にあったものを作ること」のような一般的理解にあるからである。その根幹にあるものはデザインを意識して学ぶのは小学校の図工であり、中学・高校の美術であるから誰もがデザインは美術の一部であると誤解してしまう。教育も美術の一部として行われている。しかも専門にデザインを大学で学ぼうとするならば、芸術大学や美術大学に行くしか方法がないのである。結果、多くのデザイナー自身も美術の一部として認識し、造形行為から抜け出せないでいる。デザインを考えること、理解することは美術領域ではない。イギリスやアメリカの一部の州では小学校の社会科でデザインを学ぶ。人が社会人として生きていくためにはデザインが必ず必要だからである。

『河北秀也のデザイン原論』では、「デザインとは何か」「デザインにとって必要なことは何か」「デザインの重要性」「デザインの魅力」について、アートディレクターとしての河北自らの体験を通して語られている。「いいちこ」のポスターに限らず、多くの領域で優れたデザインを生み出せているのはこのデザインに対する考え方がぶれないからであり、正論であるからだ。

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