『宿命の画天使たち』三頭谷鷹史(美学出版、2008年)
障害者アート、アール・ブリュット、アウトサイダー・アート、パラ・アート、エイブル・アート、定義は少しずつ異なるが日本で使われている類似語である。なぜこのように言葉が多様で集約しないのか。差別があってはならないという非常にデリケートな観点を含んでいるからである。障害者アートには障害者という言葉そのものに問題があり、アール・ブリュットやアウトサイダー・アートは、既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈によって制作された芸術作品を意味するが、それは極めて曖昧であり、定義に広がりがありすぎる。またアウトサイダーに差別的ニュアンスを含む。パラリンピックは身体に対してハンディキャップを明確に示しているが、アートは知的障害を対象とすることが多い。
『宿命の画天使たち』は、サブに「山下清・沼祐一・他」と明記し、対象を具体的に作家に目を向けている。さらに著者は「本書では引用文などに差別的ニュアンスを含む言葉が使われていた場合も、原文をそのまま掲載している。これは歴史的考察を客観的に行うためであって、差別の容認ではないことをご理解いただきたい。山下清たちの絵画は、差別やいじめなどによる心の傷と無関係ではないと私は見ている。彼らが受けた抑圧の現実を見ていく必要があり、そのためにも歴史的事実として存在した言葉を明記しておきたいのである」と最初に断りがある。
山下清、沼祐一を核に事実と徹底した認証をもとに、三頭谷は作家に寄り添い「彼らの作品の魅力はなにか、その魅力はどこから生まれているのか」丁寧に語っている。言い換えればそれは「絵画とはなにか、芸術とはなにか」を問うものでもある。
「知的障害者の美術に向き合い、理解を深めていくために」ひたすら山下清や沼祐一らに寄り添いつづけた著者の執念の一冊である。著者三頭谷鷹史氏が私が長く務めた大学の同僚であったことを誇りに思う。