19. 12月 2020 · December 19, 2020* Art Book for Stay Home / no.49 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『青の美術史』小林康夫(ポーラ文化研究所、1999年)

なんと心惹かれる書名ではないか、青に特定しての美術史論である。美術好きにとって、青の絵画というだけで、イメージされるものも多いかと思われる。「赤の美術史」「黄の美術史」「黒の美術史」なんていくつも考えられるが、そのシリーズが10書あったとして、やはり「青の美術史」が最も人気があろうかと思われる。空の青、水の青、衣装の青、花の青、描かれるモチーフからも青は絵画の中で重要な位置づけが予想される。

ところで青と緑は限りなくグラデーションであり、青緑、緑青という色もある。日本語では、「青い」「赤い」「白い」「黒い」の4色だけが形容詞である。4色以外は、「緑色の」「黄色い」というように形容される。つまり全ての色が4色に含まれるということで、緑は青に含まれる。信号は青か緑かという質問があるが、青に含まれるので表現として信号は青である。青葉、青麦、青蛙、青田、青木、みな緑色であるが青に含まれる緑なのである。

少し話がそれたが、青には広範なイメージが包含されている。さらに夢、理想、若い、清らかなど青の連想も幅広い。化学合成顔料によって自由に色が使えなかった時代の青は、天然石ラピス・ラズリから採った貴重な顔料であった。

本書の内容を最も的確に伝えるために目次を少し紹介する「第2章 オリエンタルな青」「第3章 聖母マリアの青いマント」「第5章 『フェルメールの青』と『シャルダン青』」「第9章 色彩の世紀―マチスとピカソ」「第10章 Poles and Balls ― サム・フランシスとジャクソン・ポロック」「第11章 地球は青かった―宇宙青とIKB」(IKB=イブ・クライン・ブルー)

著者小林 康夫は、哲学者。東京大学名誉教授、専門は現代哲学、表象文化論。美術史の専門ではないのだが、あとがきで「いつからか自分が『青』にとり憑かれるようになった」と自白している。その冷静ではないところが、この本のおもしろさである。

これからは「どんな絵が好きですか」と尋ねられたら、ゴッホとかモネとか言わずに「青い絵が好きですね」と言いたい。

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