11. 12月 2020 · December 11, 2020* Art Book for Stay Home / no.48 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『フランス留学記』笠井誠一(ビジョン企画出版社、2015年)

洋画家笠井誠一の青春日記である。笠井誠一は、1932年北海道に生まれる、1957年東京藝術大学卒業。1959年同大専攻科修了、フランス政府給費留学生として渡仏、パリ国立美術学校で学ぶ。個展を中心に作品発表、1974年愛知県立芸術大学教授、1998年退官、同大名誉教授。88歳の現在も精力的に作品発表を続けている。

本書は、フランス政府給費留学生として渡仏、パリ国立美術学校時代の20代後半の画学生の青春を日記風に書かれたものである。戦後、東京藝術大学を卒業してパリ留学は、画家を目指す多くの画学生が目標としたが、叶わぬ現実に諦めていった。勿論、笠井とて容易に叶ったわけではないが、挑戦そのものが意気揚々として書かれており、パリ留学の高揚を筆者とともに楽しむことができる。1959年8月17日横浜から船でマルセイユに向けて出発、神戸、香港、マニラ、サイゴン、シンガポール、コロンボ、ボンベイ、ジブチ、スエズ、カイロ、アレクサンドリア、マルセイユ着は9月21日。

パリでの留学生の生活は、その苦労と歓びとともに始まる。留学で絵を学ぶということは、こういうことかとワクワクする。日本人としての生活慣習、フランス語の壁、絵画に対する考え方の大きな違い。私は、芸術大学も海外留学も経験がないが、ないが故に憧れは強く、本著を通じて疑似体験を楽しむことができた。2、3ページに1点の割合で小さなスケッチが載せられており、誠実な笠井の学びを視覚確認することができる。

芸大、パリ留学という定番ルートは、今の時代にあって必ずしも定番ではない。学びたい国も、留学の形も費用も時間も様々な選択が可能である。であるがゆえに、笠井誠一の『フランス留学記』はその時代の輝きを放っていて、いいなぁと私は憧れる。

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