20. 12月 2023 · December 20, 2023* Art Book for Stay Home / no.133 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『ロンドン骨董街の人びと』六嶋由岐子(新潮社、2001年)

ブログで取り上げているArt Bookは基本的に鑑賞者の立場で選んでいる。今回取り上げた『ロンドン骨董街の人々』は収集家の人を主役にして、収集家を対象にした古美術商の視点である。そしてイギリスとはどういった国なのか、ロンドンとはどういう街なのか、骨董(アンティーク)はどう位置づけられているのかが主題になっている。

著者は、関西学院大学文学部卒業後、ロンドン大学東洋アフリカ研究所およびデヴィッド財団コレクションで修士課程を修了。ロンドンの古美術商スピンク・アンド・サンの東洋美術部に勤務の後、帰国して古美術取引、美術関連の翻訳を行っている。本著は、古美術商スピンク・アンド・サン(通称スピンク)の東洋美術部の勤務中の体験を興味深いエッセイにしている。スピンクはイギリスで最も歴史があり最大の古美術商である。

イギリス、古美術、コレクション、古美術ビジネスといった視点から見えてくるアートというものが本著の魅力である。たとえば日本の美術品で、スピンクで最も人気があり高額な柿右衛門、日本人客も争って購入する。日本で購入するよりも安いということだ。日本では少なく、買い戻して「里帰り」しているわけだが、伊万里と同様、もともと十七世紀にヨーロッパの輸出用に焼かれたものだ。すなわちあの橙色、青、緑、赤などイギリス人好みのデザインが施されたものである。

陶磁器は基本的に用の美である。鑑賞のために飾るというのは用の美ではない。ましてコレクションのために作った柿右衛門は、およそ日本の美とは異なるものである。ヨーロッパの基準は美術の至るところで大手を振っているが、日本産すなわち日本の美ではない。多様な価値があって良いのだが、コレクションの価値は大きくビジネス価値でもあることを知っておくべきところである。

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