13. 4月 2022 · April 12, 2021* Art Book for Stay Home / no.90 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『鴨居玲 死を見つめる男』長谷川智恵子(講談社、2015年)

鴨居玲、3冊目の紹介である。1冊目は鴨居玲自身によるエッセイ。2冊目は元神戸新聞文化部記者で美術評論家の伊藤誠による鴨居玲のエッセイ。本著は日動画廊代表取締役副社長の長谷川智恵子。日動画廊は鴨居が40歳のときに初めて個展を開いたところで、東京・銀座、大阪(現在は閉廊)、名古屋、福岡、軽井沢、パリ、台北にあり、さらに茨城県笠間市に笠間日動美術館がある、老舗で日本有数の画廊である。つまり長谷川と鴨居は互いにビジネスパートナーの関係にある。

鴨居は極めて端正なマスクで、180近い身長であることは多くの知るところであるが、そのことに長谷川は何度も触れ、さらにダンディでチャーミングであることを女性の視点から述べている。ビジネスで何度もパリ日動画廊に出張している長谷川は、その社交界で必要なパーティのパートナーに鴨居(パリ在住)を呼び出している。鴨居自身もパトロンでもある長谷川のリクエストに気持ちよく応えている。もちろん二人に親しいビジネスパートナー以上の関係はないことは明らかであるが、社交界での美男美女は互いに心地よかったに違いない。鴨居には同棲のパートナー富山栄美子がいて、長谷川には夫であり日動画廊社長の長谷川徳七がいる、エッセイにも度々登場している。

もちろん本著は鴨居の画家としての魅力、画家としてのナイーブな苦しみ、精神性、友の繊細な関係などが浮き彫りにされており、そのことが鴨居の絵の魅力にどのように関わっているかが興味深く書かれている。またそうした神経の迷走が自死に向かっていくことをどこかで判っていて「止めなければならない」「だが何もなすすべがない」長谷川の悔しさはどれほどのものであっただろうかが本著より伺い知れる。

救いは多くの名作を見守り、また笠間日動美術館にそれを収めることができたことであろう。そうして私たちは今、鴨居玲に会うことができる。