10. 1月 2022 · January 10, 2022* Art Book for Stay Home / no.83 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『レプリカ ー真似るは学ぶ 』三浦篤、小島道裕、木下直之、中島誠之助(INAX出版、2006年)

美術品や骨董品を指して「本物ですか、偽物ですか」という質問がよくある。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」を観ているとわかるが、これは「本物か、偽物か」の興味は「本物ならいくらの鑑定額が示されるのか」が興味の矛先である。百万円か三百万円か、ひょっとして一千万円か。ところが答えは三万円、「何だ、それは」偽物ならゼロ円ではないのか。鑑定額には、本物と偽物の間がある。いや世の中には本物と偽物の間に限りなく本物に近いものから偽物に近いものがある。例えば勉強のために本物を手本として、模写をする。弟子はひたすらそれを繰り返す、日本では「写し」と言う。習字は習うために手本を真似る。美術大学でも模写は大切な授業である。つまり、世の中には本物とそっくりなものが膨大に存在する。これらを偽物とは言わないが、本物であると偽った時点で偽物になる。もちろん本物を偽るために造る偽物も多くある。

さて本著「レプリカ」とは何か。その意味、価値、歴史、技術について深く問いかけて、それに答えている。また偽物との関わりにも言及している。レプリカとは複製品のこと、本来は「オリジナルの制作者自身によって造られたコピー(複製品)」を指していたが、現在では制作者かどうかは問わないことが多い。また製作にコンピュータが関わってきて、その精度は極めて高いものになっている。

ローマ帝国の時代には職業的な複製業が成立し、ギリシャ時代にはほとんどの作品のレプリカが作られた。その目的は、原作が失われてしまった場合に、レプリカが学術的・芸術的に重要な価値を持つからだ。また本物の劣化を防ぐために、あるいは盗難防止の為に、日常はレプリカを展示して鑑賞に給している例が多いことも知られている。

名作の偽物が発見され、見つかった犯人は作者自身であったということがある。貧乏で食い詰めた画家が、かつて評価が高くて売れた作品を自ら複製して本物として売ったのである。同じ作家の同じ絵が2枚あって、しかもあとから描かれたものの方が良かったという笑えない事件があった。