10. 11月 2021 · November 10, 2021* Art Book for Stay Home / no.79 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『ルオー礼讃』鈴木治雄(岩波書店、1998年)

ルオーの絵の虜になってしまった著者が、「ルオーの絵はなぜ素晴らしいのか」をできる限りの客観性をもって書き上げた。著者鈴木治雄は1913年生まれ。東京大学法学部卒業後、昭和電工社長、会長、名誉会長、DDRフンボルト大学経済学名誉博士号等。著書に『化学産業論』『古典に学ぶ』他。いわゆる美術畑の人ではない。ルオー作品と出会い、ルオーに恋した実業家が、自らの一途な恋を成就するために書き上げたものと言えるだろう。

ルオーと交友のあった多くの日本人を訪ね、あるいはルオーについての記述を読み、ルオーに会うがごとく近づいていく。高田博厚(彫刻家)、森有正(哲学・フランス文学者)、谷川徹三(哲学者)、梅原龍三郎(洋画家)、武者小路実篤(小説家)、武者小路実光(フランス文学者)、長與善郎(小説家・劇作家)、岡本謙次郎(美術評論家)、麻生三郎(洋画家)、矢内原伊作(哲学者・ジャコメッティのモデル)、小川国夫(小説家)、古田紹欽(仏教学者)、吉井長三(吉井画廊会長)、柳宗玄(美術史家)、中村草田男(俳人)、小林秀雄(文芸評論家)、河井寛次郎(陶芸家)ほか、なぜこれほど多くの文化人たちがルオーを評価し、愛し、また作品を所有しているのか。ルオーが日本を愛し、訪れたわけではない。彼らがルオーを愛し多くはパリを訪れたのだ。1953年、西洋の画家としては極めて早く東京国立博物館で個展を開催している。日本人のルオーへの想いの一つの実現と見ることができる。

ルオーは敬虔なカトリック教徒であり、多くはキリスト教絵画と呼べるものである。一方上記した殆どはキリスト教信者ではない、キリスト教絵画ではあるが、そういう枠を越えて圧倒的な魅力で存在するルオーなのである。ルオーのことをあまり良く知らなかった人はルオーを知り、ルオーのことが好きになる。ルオーが好きな人はもっと好きになる、そういう本だ。