『手仕事の日本』柳宗悦(岩波文庫、1985年)
本著は、1948年に出版された靖文社刊の『手仕事の日本』、1954年に出版された春秋社刊の『柳宗悦選集』を元に文庫本として書かれたものである。著者柳宗悦は民藝運動を起こした思想家、美学者、宗教哲学者であって、民藝といえば柳宗悦という存在である。本著の後記で「この一冊は若い方々のために、今までよく知られていなかった日本の一面を、お知らせしようとするものであります。」と書かれている。現在70歳の私は若い人ではないが、柳の趣旨は後世の人のためにというものであり、正に貴重な一冊であり、現代の我々誰もが読むべきものであると考える。
柳が本著を書くにあたり、日本全国を旅し調査にあたったのは、大正末から昭和18年まで20年に及んでいる。交通の不便なところこそ本当の民藝の素晴らしさがあるとし、その取材は困難を極めたものと思われる。そしてその頃、まだまだ生き生きと活躍していた民藝が、今では多くが無くなり本著では遺書と化しているものも多い。しかしながら集められた民藝は、現在日本民藝館に収められており、現代の我々も観る事ができるのは幸いである。
柳は「工芸の美は健康の美である」、「用と美が結ばれるものが工芸である」、「器に見られる美は無心の美である」、「工芸の美は伝統の美である」と説き、民藝美論の骨子を集約している。それは作者があらわされているものではなく、今日の芸術のあり方をも鋭く批判している。
本著を読みながら、日本民藝の旅をすることになる良きガイドブックともなっているが、200点にも及ぶ芹澤銈介の挿絵もまた見ものである。そして道具には実に多くの名前があり、その名前がどのように付けられ、伝えられていったのか、用途、素材、色、形、地域、使用方法などが込められており、民藝のあり方というものを再考させられる。