06. 10月 2020 · October 6, 2020* Art Book for Stay Home / no.38 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『日本その日その日1』『日本その日その日2』『日本その日その日3』E.S.モース、石川欣一訳(平凡社、1970年)

E.S.モース(エドワード・シルヴェスター・モース)は、アメリカの動物学者で、標本採集のために1877年に来日し、請われて東京大学教授を2年務め、大学の社会的・国際的姿勢の確立に尽力した。大森貝塚を発掘し、日本の人類学、考古学の基礎をつくった。日本に初めて、ダーウィンの進化論を体系的に紹介した。

1913年、75歳となったモースは、30年以上前の日記とスケッチをもとに、『Japan Day by Day(日本その日その日)』の執筆を開始、1917年書き終えて出版。訳書は辞書のような体裁で、細かな文字がぎっしりと各巻300ページに及ぶほどの濃い密度となっている。

美術の視点から観て何より興味深いのは、西洋の影響を殆ど受けていない日本の暮らしの中にある美である。神社・仏閣、書画、公家、武士、豪商といった日本美術史に登場する美を追求したものではなく、庶民の暮らしの中にある使い込んでさらに使い込んで残されてきた粗野な美。日本人の誰もが美術という意識の外にあるもの。アメリカ人モースさんは、西洋人で動物学者であり、人類学、考古学にも深い知識を持ち合わせていたこと、そしてあっという間に西洋の影響で変容していく寸前の日本であったからこそ、この著を類稀な魅力的なものにしている。

そして何よりも、その視点を膨大なスケッチに残していることであり、そのスケッチがもの凄く上手いのである。掲載されているスケッチは両手を使って描かれたもので、両手を使うので普通の人より早くスケッチを終えることが出来たという。講演会でも、両手にチョークを持って黒板にスケッチを描き、それだけで聴衆の拍手喝采を浴びるほどであったそうだ。

訳書を読みすすめると、モースさんの人柄が身近に感じられて楽しい、なんて素敵な方なのだ。日本人の暮らしに、愛ある興味で目を輝かせている。モースさん素敵な記録をありがとう。