21. 10月 2020 · October 21, 2020* Art Book for Stay Home / no.40 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『アート・ウォッチング』監修・執筆中村英樹+谷川渥(美術出版社、1993年)

おもしろくて、大好きで仕方のないことを、関心はあるけれど、何がおもしろいのか全く解らない人に、「ここがおもしろい」と解りやすく話すことは極めて困難である。本著『アート・ウォッチング』には[ビジュアルガイド・美術鑑賞入門]というサブタイトルと、「現代美術を体験しよう」というキャッチフレーズが添えられていて、いかにも初心者向けに「現代美術は難しくないですよ、簡単ですよ」という呼びかけをしている。

私について言えば、20代の頃はギャラリー巡りをしていて現代美術と出会った。よく解らなかったが、なにか惹かれるものがあったし、解らないことが恥ずかしいので解ったふりをして一生懸命現代美術を観て回った。何となく解るようになるのに10年、そこから先はおもしろくて仕方がない。という道筋をたどった。たった一冊の本で簡単に理解できるものではないと思う。監修・執筆の一人中村英樹氏は勤務していた大学の敬愛する先輩、ちょっと意地悪な気持ちもあって、お手並み拝見気分で読んだ。膨大な作品写真が読み進める意欲を高めてくれる。でもやっぱり難しい、難しいが至るところに手がかりがある。一冊読み終えて「現代美術が解った、おもしろい」という人は極めて少ないと思う。「おもしろいな」と思える作家が一人でも見つかったら、この本と出会って正解だ。「やっぱり解らない」と解らないことを確認することになっても、この本との出会いは正解だ。なぜなら読者に多くの疑問を残したことになるからだ。少しずるい結論だけれど「解らないことが現代美術のおもしろさだ」と言えるからだ。現代美術は鑑賞者にたくさんの疑問を残す。謎掛けのようなものだ、その謎が一つ一つ解けて行くおもしろさと言っていいだろう。なぜそんなに難しいのか、現代美術は既成の理解、概念を越えるところにあるからだ。

現代美術は、それまでの美術を否定し、新しいものを提示する。理解しようとする鑑賞者は、いつもそれまでの美術のファンであり、そこを否定してくる現代美術は普通苦手である。しかし、たった一枚の扉が次々と新たな感動を見せてくれるから、やはり扉を開けることを誘惑したい。