09. 5月 2023 · May 9, 2023* Art Book for Stay Home / no.119 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『誰も知らなかったココ・シャネル』ハル・ヴォーン、赤根洋子翻訳(文藝春秋、2012年)

ココ・シャネルの伝記については、多くの書籍が出版されており、その多くは彼女のサクセスストーリーである。極貧の家庭に生まれ、放浪のあと厳しい孤児院に預けられ、その後男性接客を目的とするキャバレー働き、お針子としてのスタートから世界トップデザイナーとしての成功は、ファッションデザインに関心の無い者にさえその人生には惹きつけられるだろう。さらにスキャンダルをともなう多くの華麗なる男性遍歴(女性遍歴も含めて)、それは映画や舞台にもなった。そうした多くのココ・シャネル伝には殆ど描かれることがなかった部分がある。第2次世界大戦中の彼女の行動である。

本書『誰も知らなかった・・・』はその部分である。ココ・シャネル自身が決して真実を語らず、努めて世間の目を逸らそうとしてきた。ドイツ占領下のパリで彼女が積極的にナチスに協力していた事実、ナチスのスパイであったことを暴いている。したがって本著ではその証拠となる多くの公文書のコピーも紹介されており、時効後の今でも衝撃的な著作である。

第二次世界大戦後、70歳を越えたココ・シャネルは、ファッションデザイナーとして見事な復活を遂げる。才能であるとか、運とかそういうものを遥かに超えていくココ・シャネルとは、どういう人物か、本著で力強く語られる。彼女を彩った男たち(ウィンストン・チャーチル、ジャン・コクトー、パブロ・ピカソらも含まれる)は、圧倒的な地位、名誉、知名度、コネクション、財力を持っていたが、それがみなココ・シャネルのために存在していたと思えるのである。