14. 3月 2023 · March 14 , 2023* Art Book for Stay Home / no.115 はコメントを受け付けていません · Categories: 日記

『出会いを求めてー現代美術の始源』李禹煥(美術出版社、2000年)

著者はエッセイと述べているが、エッセイの言葉がイメージするような気楽なものではない。明らかに美術評論集である。本文は6つの論説「観念崇拝と表現の危機―オブジェ思想の正体と行方」「出会いを求めて」「認識から近くへー高松次郎論」「存在と無を越えてー関根伸夫論」「デカルトと過程の宿命」「出会いの現象学序説―新しい芸術論の準備のために」より構成されている。「出会いの・・・」が本著のための書きおろしで他は1969年から1971年に『美術手帖』(美術出版社)や『SD』(鹿島出版会)に発表されたものである。 1969年から1971年といえば、「もの派」の活躍が顕著に示された頃であり、美術家としてその中心に著者がいたことは、こうした論説が多く発表され、一見「ものを置いただけ」のもの派にきちんとした論理を並走させたことが大きな理由であろう。

著者は、生まれ育った韓国に住み、20歳のときにソウル大学校美術大学中退、日本に留学、日本大学文学部哲学科を卒業している。哲学科では東アジアとヨーロッパの哲学を勉強している。本著は美術に対する論説ではあるが、古今東西の哲学者、思想家が多く登場してくる。そのあたりの知識が極めて浅い私にとっては極めて難解な内容であるが、1970年頃からもの派をはじめ多くの現代美術作品に触れて来たおかげでどの美術作品か、どの美術シーンであるかが分かるのでそこから文脈を読み起こすことができた。

1960年代から、ニューヨークを中心に現代美術の隆盛が続いているが、その大きな特徴は作品の表現による新しさではなく、作品が生み出される源となる思想性にある。それは音楽、舞踊、文学、哲学、宗教学、医学、天文学、考古学、工学など多分野のスペシャリストを巻き込み、大星雲を創造しつつある。美術は手の仕事から脳の仕事に移ったのである。脳の仕事は手の仕事を切り捨てるものではないが、重心が移動した今、李禹煥の脳と手の仕事は大きな評価を得ており、本著はその切り口となるものである。